2020年東京五輪の暑さ対策として、サマータイムの導入を検討してはどうか─。五輪組織委員会の唐突な提案が波紋を広げている。菅義偉官房長官は導入に消極的だが、近く自民党内に法制化に向けた議員連盟が設立される見通しだ。サマータイムは、主に高緯度国が夏の日照時間を活用する目的で、標準時刻を春に1時間繰り上げ、秋に元へ戻す制度だ。欧米では第二次大戦中あるいはそれ以前から実施されてきたが、時刻変更に伴う健康問題、特に睡眠への影響が以前から指摘されている。「秋の睡眠の日」(9月3日)を前に、サマータイム導入論と睡眠・健康への影響について整理した。
サマータイムに伴う健康問題として、第一に生体リズムへの影響が指摘されている。2007年に報告されたドイツの大規模調査によれば、春秋の時刻変更に生体リズムが慣れるまでに3~4週あるいはそれ以上を要し、夜型人間は時刻変更から4週を経ても生体リズムのズレが残ることが明らかになった。
第二は睡眠の量と質への影響。フィンランドで行われた調査(2003~04年)では、サマータイム移行後に睡眠時間が60分短くなり、睡眠効率も平均10%低下したと報告されている。2008年にNEJM誌に発表された、カロリンスカ研究所がスウェーデンの症例登録データベース(1987~2006年)を分析した調査では、春の時刻切替え直後3日間の急性心筋梗塞の発症率が、移行前に比べて有意に増加していたことが示され、睡眠不足の影響によるものと考察されている。