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(3)精神疾患における炎症性サイトカインを介したミクログリア病態治療仮説[特集:ストレス関連疾患のメカニズム―最近の知見から]

No.4895 (2018年02月17日発行) P.36

加藤隆弘 (九州大学病院精神科神経科講師)

神庭重信 (九州大学大学院医学研究院精神病態医学教授)

登録日: 2018-02-16

最終更新日: 2018-02-14

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  • うつ病をはじめとする精神疾患では,古くから,その発症や再燃にストレスが関与することが示唆されている。ストレスにより血中コルチゾールが高値となるが,一部のうつ病患者においても血中コルチゾール高値を認めることから,精神疾患におけるストレスの病態研究として,これまでHPA axisを中心としたバイオマーカー研究や病態解明研究が進められてきた

    近年,様々な精神疾患において末梢血や髄液中の炎症性サイトカインの上昇が報告されており,精神疾患の脳内炎症仮説が提唱されている

    脳内免疫細胞ミクログリアは炎症性サイトカイン産生などを介して脳内炎症に重要な役割を果たしており,モデル動物では急性・慢性ストレスによるミクログリアの過剰活性化が報告されている。死後脳研究やPET研究では,統合失調症,自閉スペクトラム症,うつ病など様々な精神疾患患者において脳内ミクログリアの過剰活性化を示唆する所見が報告されている

    末梢血由来ミクログリア様(iMG)細胞の作製や末梢血メタボローム解析などを活用して,末梢血採血によりミクログリア活性化を評価する代替的方法が開発されている。こうした新しい方法を用いた解析でも,一部の精神疾患患者においてミクログリア過剰活性化が示唆されている

    上述のような知見の集積により,近年,精神疾患のミクログリア過剰活性化仮説が注目されており,脳内ミクログリアの過剰活性化や炎症性サイトカイン産生の制御が精神疾患の治療になる可能性がある

    1. ストレスと精神疾患,特にうつ病

    家庭・学校・会社など日常生活の様々な場面におけるストレスフルなライフイベントが精神疾患の発病や増悪の誘因になることが昔から広く知られている。うつ病の発症においてストレスの関与は特に大きく,たとえば,最近では学校や職場での(さほど強くない)ストレスイベントを契機として,抑うつ状態に陥り回避的な行動を引き起こす青年が急増しており,社会問題になっている1)2)。また,幼少期の虐待や貧困などによる心理社会的ストレスがうつ病の発病リスクを上昇させることも,多くの疫学調査により明らかになっている。こうした心理社会的ストレスが精神疾患を引き起こすメカニズムは十分には解明されていない。ストレスにより血中コルチゾールが高値となるが,一部のうつ病患者においても血中コルチゾール高値を認めることから,精神疾患におけるストレスの病態研究としては,これまでhypothalamic-pituitary-adrenal(HPA)axisを中心としたバイオマーカー研究や病態解明研究が進められてきた3)

    2. 炎症と精神疾患

    近年,ストレスと炎症との関連が様々な身体疾患で注目されており,精神疾患患者においても血中の炎症マーカー,特に炎症性サイトカインの上昇が数多く報告されている。最新のメタ解析では,健常者と比べて統合失調症,大うつ病(以下,うつ病)患者で,IL-6,TNF-α,IL-2Rの血中濃度が急性期に増加しており,治療によるIL-6濃度の低下が報告されている4)。また,自殺念慮の強いうつ病患者では,IL-6,TNF-αの血中濃度が高いという報告もある5)。さらに,脳脊髄液でもIL-6,IL-8など炎症性サイトカインの濃度上昇が示唆されており6),こうした知見に鑑みると,精神疾患の病態に脳内炎症が何らかの役割を果たしていることが示唆される。

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