【皮膚などが寒冷刺激を受け,膀胱知覚が刺激されることが大きく関係していると考えられる】
私たちの日常診療においても過活動膀胱症状の患者は,冬寒くなると増加し,夏になると減少するという傾向があり,薬物療法を受けていた患者が,暖かくなり症状が改善すると服薬の中止を希望されることもあります。したがって気候が寒くなると,頻尿が悪化する可能性があります。これらは医療施設を受診する患者ですが,冷えによる尿意の亢進は,正常な人にも当てはまる現象と言えます。
「過活動膀胱診療ガイドライン第2版」によりますと,「頻尿,夜間頻尿,尿意切迫感に,季節差はあるか?」というclinical questionに対し,「頻尿,夜間頻尿,尿意切迫感は冬季に悪化する可能性がある。ただし信頼性の高い方法を用いた調査はない」と回答されています。ここでは2つの季節変動を検討した研究が取り上げられています。
1つはわが国の3地点(北海道,関西,九州)で,41~70歳の住民2000人(合計6000人)を無作為に抽出し,半数ごとにわけ2月と8月に郵送法で行った症状調査です1)。調査結果では,「尿意切迫感,頻尿,2回以上の夜間頻尿は冬季に悪化し,季節変動は北海道で弱く,九州で強かった。冬季の気温低下は1日尿量の増大を,急な寒冷刺激は尿意亢進を,夜時間の延長は就床時間延長をもたらし,症状の増悪に繋がることが推定される」と報告されました。同一の受診患者31人の季節変動を5年以上にわたって調査した研究では,「下部尿路症状,尿流量検査時の排尿量,残尿量に季節の影響はみられなかった。ただし,観察開始2年目までは冬季の症状悪化が認められ,最大排尿量は寒冷時に増加していた」という結果でした2)。
地域差は身体的適応もしくは社会的環境,特に冷暖房の完備状況が関係します。すなわち北海道などでは,暖房設備が完備されているので,寒冷の影響を受けにくい状況のようです。
冷えによる頻尿のメカニズムには,①発汗量が減少したために排尿量が増加する,②冬は夜が長いために,実際に床にいる時間が長くなる,こともありますが,やはり③皮膚などが寒冷刺激を受けることにより,膀胱知覚が刺激されること,が大きく関係しているのではないかと思われます。
動物実験による研究でも,ラットを急に寒冷刺激にさらすと頻尿が誘発されることが報告されています。その機序には,自律神経系,膀胱の無髄C線維(通常は活動していないが,種々の病的状態で活動する),寒冷刺激で活動するtransient receptor potential channel(TRP)(M8),血流障害(虚血)などが関与することなどが報告されています3)。
寒冷による頻尿の治療として,入浴(特に半身浴),温熱シート,夕方の軽い運動などによる保温と膀胱の血流増強が有効という報告もあります。
【文献】
1) Yoshimura K, et al:Urology. 2007;69(5):864-70.
2) Watanabe T, et al:Scand J Urol Nephrol. 2007; 41(6):521-6.
3) Imamura T, et al:Neurourol Urodyn. 2008;27 (4):348-52.
【回答者】
山西友典 獨協医科大学排泄機能センター教授