現代の不眠の背景には加速する高齢化とともに,24時間型社会,すなわちリズムレス社会がある。夜間の光環境は変化し,24時間営業のお店はめずらしくなく,繁華街では夜でも昼間のように光が溢れている。気軽に立ち寄れるコンビニエンスストアも,昼間のように明るい。社会の24時間変化もあり,深夜営業や24時間営業での交代勤務や,日勤者でも深夜まで仕事をするなど,働くのは昼間とは限らなくなってきている。
インターネットやモバイルの普及もあり,夜中までメール,ブログ,ツイッターなどで過ごしていることもしばしばある。これは,大人に限ったことではなく,子どもでも同じ現象が起こっている。つまり,現代社会は昼夜の区別を失っているリズムレス社会と言える。そして,このリズムレス社会は人々からメラトニンを奪い,睡眠のリズムを失わせているのである。
このメラトニンとは,「睡眠促進ホルモン」とも呼ばれており,体内時計を調整し,良質な睡眠をとるためには必要不可欠な脳内ホルモンである。メラトニンは,脳の松果体から分泌され,体内時計の中枢である視交叉上核にある「メラトニン受容体」というところに結合する。メラトニンがメラトニン受容体に結合すると,体内時計にその情報が伝わり,体温,血圧,脈拍などを下げて,体を睡眠モードに切り替える。
このメラトニンは,昼間はほとんど分泌されず,夕方以降になると徐々に分泌量が増えていく。それはメラトニンが,①朝,太陽の光を浴びて体内時計がリセットされ,②約14~16時間経過後の夜に周囲が暗い(強い光を浴びない)状態,という2つの条件を満たさないと分泌されないという特徴をもっているからである。このように,眠りのリズムの鍵のひとつはメラトニンというホルモンであり,また,そのメラトニンの分泌は光によって調節されている。
ここで,2つの条件のうちの①の条件である体内時計のリセットという点からリズムレス社会をみてみる。
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