「まち・ひと・しごと創生総合戦略(2014年12月27日閣議決定)」の中に、「都会の高齢者が地方に移り住み、健康状態に応じた継続的なケア環境の下で、自立した社会生活を送ることができるような地域共同体『日本版CCRC』について検討を進める」とあります。それを受け、日本版CCRC構想有識者会議は、基本コンセプトに「継続的ケア」の確保を挙げています(15年2月25日)。つまり、日本版CCRCも単なる“まちづくり”ではなく、米国のCCRCのように医療と介護が最後まで保障されなくてはなりません。そうでなければ、医療と介護が必要になったときに高齢者は行き場を失います。現に、1993年から福岡県朝倉市に開発が始まったシニアタウン「美奈宜の杜」には332世帯652人が暮らし(2015年)、有料老人ホーム(39室)もありますが、医療と介護が最後まで保障されていないため、シニア住民が流出しました。そのため、介護サービス事業者の誘致やグループホームなどの受け皿づくりを検討しているとのことです。
今の日本では国民の77%が病院で亡くなり、しかも望まない積極的医療や延命医療が高齢者に行われています(写真)。そのため、現状の終末期医療が変わらなければ、日本版CCRCをつくっても施設や自宅で穏やかに亡くなることはできません。米国のCCRCで看取りができるのは、入居者が終末期に積極的医療や延命医療を望まないから、そしてそれを国民が是としているからです。日本版CCRCを計画するときには、高齢者の終末期医療のあり方についても検討する必要があります。
日米間には様々な制度の違いがあります。しかし、他国の事例を学ぶことで新たな視点が得られます。日本には公的医療保険に加え公的介護保険があり、米国に比べ高齢者は医療と介護に恵まれています。しかし、病院の機能は細分化されてわかりにくく、介護保険制度も複雑です。さらに、医療保険と介護保険は制度が異なるため、両者の連携は不十分です。そのため、高齢者は入院や介護が必要になると、病院や介護施設を転々としなければなりません。そのほかにも、将来介護してくれる人はいるだろうか、死ぬまでにどのくらいお金が必要だろうか、リビング・ウィルは尊重されるだろうか、どこでどのように最期を迎えるだろうか、などの不安が国民にはあります。その点、米国のCCRCは、生活を楽しみながら切れ目のない医療と介護が最後まで受けられます。そして、終末期は緩和医療が中心で、積極的医療や延命医療は行いません。そのため、穏やかに最期を迎えています。
一方、日本は必ずしもCCRCを必要としません。なぜなら、ほとんどの高齢者は、“aging in place”(住んでいる場所や地域で老いていく)を望み、かつ、日本には優れた医療保険と介護保険があるからです。この制度を活用することで、今住んでいる場所や地域で医療と介護を受け、穏やかに最期を迎えることができるはずです。新たなコミュニティをつくる必要はありません。そのためには、高齢者医療のあり方を変えなくてはなりません。
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