免疫系と神経系は双方向性の密接なネットワークを形成していることが知られている。脳内の免疫系においては,マイクログリアやアストロサイトが重要な役割を果たすが,うつ病や統合失調症の患者では,これらの活性化による炎症性機序の亢進が報告されている。また,一部のうつ病や統合失調症患者においては,血液中や髄液中でも炎症性サイトカインが上昇しており,精神疾患の病態に炎症が関与することが示唆されている。
炎症が直接的にもたらす生理的および精神的な変調のひとつに,サイトカインが中枢に作用して生じるsickness behaviorと呼ばれる行動変化がある。これは,感染症などの際に炎症によって誘発される倦怠感,意欲低下,食欲低下,睡眠障害などであり,インターフェロン治療の副作用として生じるうつ病は,このsickness behaviorによると考えられる。一方で,慢性的な炎症は神経発達に負の影響を及ぼすことが動物実験によって示されており,神経発達の障害に起因する精神疾患の発症に関与することが示唆されている。これを裏づける疫学的データとして,胎児期の母体感染が統合失調症や自閉症のリスクを高めることが報告されている。
現存するエビデンスからは,うつ病,双極性障害,統合失調症,自閉症の少なくとも一部の患者においては,病態に免疫系の異常と神経炎症が関与していると考えられる。神経炎症による発症機序の解明が,新たなバイオマーカーや治療法の開発につながることが期待される。
【解説】
篠山大明*1,鷲塚伸介*2 *1信州大学精神医学准教授*2同教授