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それでも救急医にできることは[プラタナス]

No.4878 (2017年10月21日発行) P.3

薬師寺泰匡 (岸和田徳洲会病院救急科医長)

登録日: 2017-10-23

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  • 救急医の仕事は何か。もちろん様々な働き方があると思うが、救命というのが根本的な存在意義ではなかろうかと思う。ERで人を死なせるのは恥であるという気概で日々働いている。そんな中、友人救急医がこんなことを言っていた。

    「生産性の再生産をしたくてこの仕事をしているが、それができなくなってきている」

    ごもっともな意見である。たしかに命だけあっても仕方ないのではないかという気持ちに支配されることを経験する。救命したはいいが、全身状態の悪化から元の生活に戻れなかったり、蘇生後に意識の改善がなく、気管切開をして経管栄養をしながら療養型病院に転院されていったりする患者さんが後を絶たない。生産性の再生産を達成することは救急医にとってこの上ない喜びであることは間違いないが、近年やはり叶わぬことの方が多い。我々が社会にできることはなんだろうか。

    半年近く病棟でお付き合いした患者を思い出す。10歳にも満たない少年で、溺水CPAで搬送されてきた。かなり時間が経過している印象だったが、とりあえず目の前の命をなんとかせねばと蘇生を試みる。心拍再開したが肺は水浸し。一晩中人工呼吸器とにらめっこしながら、どうにか酸素化を安定させる。翌日以降、循環動態は比較的安定したが自発呼吸が出ることはなく、意識はおろか脳幹反射もなかった。どんな状態かお察しいただけると思う。血色良好にもかかわらず、2度と目を開けないであろう我が子を目の前にして、両親、とくに母親は絶望のオーラに包まれていた。

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