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共感力[炉辺閑話]

No.4889 (2018年01月06日発行) P.69

堀江重郎 (順天堂大学大学院医学研究科泌尿器外科学教授)

登録日: 2018-01-05

最終更新日: 2017-12-21

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クリーブランドクリニックのCEOであったコスグローヴ医師が、ハーバードビジネススクールに招かれて講演したときに受けた意外な質問で、彼が病院組織の大変革を行うきっかけとなった話が『サイロ・エフェクト』(ジリアン・テット著、文藝春秋刊)という本に載っている。未来型病院の成功例としての講演の後で、フロアの学生から「クリーブランドクリニックの素晴らしい実績は知っていましたが、共感力がないと聞いていましたので、父親の手術はほかの病院に行きました。クリーブランドクリニックでは共感することを教えているのですか?」と質問され、初めて「共感」という価値に遭遇する。これをきっかけにコスグローヴは、ベルトコンベヤーに患者を載せるような一方向の医療でなく、専門や職種の壁を極力取り除いて、患者の訴えや価値を尊重する医療ができる体制へ病院を変革する。実際に、彼の改革がどの程度奏効したかはわからないものの、「共感」を感じると患者の治療効果も高くなることが報告されている。「共感」に依存したり、また、装うことは論外であるが、医療機関の価値のひとつに、今後「共感力」が要求されてくることは間違いないであろう。

われわれの泌尿器科では学生実習の一環として、入院患者に対して「インタビュー」を行ってもらっている。もっとも、このインタビューでは、極力病気のことは話題にせずに患者のこれまでの人生を伺うように、と学生に告げている。患者から話を聞きだす学生の力には個人差があるものの、患者は皆すこぶる協力的で、また、喜んでこれまでの人生を語ってくれることが多い。こちらのねらいは、病気でなく患者それぞれの人生に興味を持つことが、どういう化学反応を学生と患者の間に起こしてくれるのか、を経験してもらうことであるが、医療者向けの「共感力」を測るテストを行ってみると、インタビュー後に学生の「共感力」はぐっと上昇する。

共感するには、当たり前ながらまず患者そのものに興味を持つことが前提となる。こういう文化人類学的なアプローチも、医学教育には必要であると感じている。

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