2018年度診療報酬改定で新設された、情報通信機器(ICT)を用いた診療や医学管理を評価する「オンライン診療料」「オンライン医学管理料」が4月か ら算定可能となった。厚生労働省はICTの活用を、今後の医療が避けて通れない必須技術と位置づけている。本連載では、オンライン診療を活用している診療所の実例を紹介しながら、対面とオンラインを組み合わせた新たな医療提供のあり方について考えてみたい。【毎月第1週号に掲載】
オンライン診療は従来、“遠隔診療”と呼ばれることが多かった。これは、へき地や離島など距離の離れた患者への診療や医師との連携を想定していたためだ。しかし18年度改定では、外来、入院、在宅といった対面診療を補完する新しい医療提供スタイルとして、ICTを用いた診療や医学管理を再定義。「オンライン診療」という表記が診療報酬上でも用いられた。4月から算定可能となる主な点数は表1の通りだ。
対象は、初診から6カ月以上同一医師による診療を受け、「特定疾患療養管理料」や「地域包括診療料」などを算定している定期的な医学管理が必要な患者。1月につきオンライン診療料は70点、オンライン医学管理料は100点をそれぞれ算定できる。オンライン診療には、高齢者の通院負担軽減や忙しい現役世代の受診継続を促す効果なども期待されており、地域の診療所が新たなサービスとして導入することで、患者の満足度は向上するとみられている。
16年に東京・品川区で開業した「みやざきRCクリニック」では、まさに近隣の患者に対し、オンライン診療を実施している。同院で導入しているのは、(株)情報医療が運営する「curon」(https://curon.co/)というスマートフォンを用いた診療アプリだ。
宮崎雅樹院長(写真)は導入のきっかけについて「新規開業に当たり、何か“売り”になるものが必要と考えていたところ、知り合いの先生から遠隔診療のサービスを紹介してもらいました。通常の対面診療とは違った院内の診療フローを確立する必要があるので、開業時こそちょうど良いタイミングだと思い、導入を決意しました。世の中の流れとしてICTを活用した診療は必ずニーズが高まっていくと思います」と語る。
curonを用いたオンライン診療の流れは図の通り。スマートフォンで問診や診療が可能になり、処方箋と薬は自宅に配送される仕組みだ。患者にとっては、待ち時間と薬をもらう手間や通院の負担が軽くなる。懸念される情報セキュリティ対策については、電子化された医療情報を外部保存する際に遵守が求められる、いわゆる“3省4ガイドライン”に準拠している。
宮崎さんが現在オンライン診療を実施している患者は10人強。「オンライン診療は将来大切なツールになるものだからこそ、慎重に進めていく必要があります。誰にでも適しているわけではありません。私がオンライン診療を勧めるのは、一定期間継続して受診していて、比較的症状が安定している喘息とアレルギー疾患の方で、治療の継続性に理解がある場合に限定しています。信頼関係を築いた上でオンラインに移行するというステップを踏んでいるからなのか、特に問題は発生していません」という。
オンライン診療の運用を巡っては、3月に厚労省が「オンライン診療の適切な実施に関する指針」を公表。生活習慣病等の慢性疾患について、定期的な直接の対面診療にオンライン診療を組み合わせることで、利便性の向上や医学管理の継続性、服薬コンプライアンス等の向上を図る場合などが望ましい例とされている。
オンライン診療サービスを提供する複数社の中からcuronを選んだ主な理由は、初期費用、月額利用料ともに無料(表2)であることだった。「利用状況にかかわらずランニングコストがかからないのは経営面からも魅力的でした。また実際に運用していく中でのサポート体制も重視しました。オンライン診療は新しいサービスなので、医師と患者のどちらも慣れていないことを考えると改良を重ねていく必要があります。その点、診療後に電話をしても快く対応してくれて、私の要望をできる限り反映してくれようと取り組んでくれるので、パートナーとして信頼しています」
患者からの反応については少し予想外だったという。curonのシステムでは、医療機関の費用負担はクレジットカード手数料(患者負担の4%)のみである一方、患者は利用料金として500円(院外処方の場合)を負担する。歩いて来院する近隣の患者にこの負担がどう受け止められるのか不安を抱いていたが「概ね『500円なら』と好意的で、ビジネスマンだけでなく子育て中のお母さんからの反応が良かったことが印象的でした」と手応えを感じている。4月からの保険適用を受け、働きかけを増やしていく方針だ。
オンライン診療のメリットばかりが目立つが、医療機関が留意すべき点はないのだろうか。
「システムの習熟など初めは医療機関が頑張らなくてはいけない部分が多いのは確かです。ただそれほどハードルは高くないので、その頑張りが患者さんの満足度につながり、いずれ戻ってくると思います。オンライン診療というとICTを駆使し効率化した“クールな医療”との認識を持たれている先生も多いかもしれませんが、実際に始めてみるとそうではないと感じます。ICTは使うものの、中身は患者さんとの信頼関係の上に成り立つこれまで通りの泥臭い診療と考えて問題ありません。医療の基本はオンラインでも変わらないと思います」(宮崎さん)