前項では「診断プロセスは患者・家族を含めたチームスポーツである」という概念を紹介しました。患者・家族には,具体的にどのように診断に貢献してもらうことができるでしょうか。
まず,診断プロセスで患者と家族が経験する課題について考えてみましょう。この課題を解消することが,患者・家族を巻き込んで診断エラーを回避することにつながる可能性がありそうです。これについては以下のようなことが言われています1)。
■患者と家族は,時に……
・難しい人と思われるのが嫌で,不満を言うことを恐れる。
・多くの理由で無力を感じる(病気,恐れ,社会状況)。
・自分の問題を真剣には考えない。
・医療システムがどうなっているのか,どのように医療に参加できるのか,よく知らない。
・経験があるように見せかける経験不足の医師に対処するのは困難である。
・問題が解決しなかったとき,どのようにして他に意見を求めればよいかわからない。
■医療専門職は,時に……
・患者の訴えや考えを取り上げない。
・重篤な症状や悪化についての患者・家族の心配に耳を傾けない。
・まだ診断できていない段階で,精神的,アルコール,薬物による問題と診断してしまう。
■医療システムは,時に……
・協働とチームワークがなく,ケアが分断されている。
・コミュニケーションが分断されている。
・患者に届けられる情報が不足している。
・検査結果がしっかりと見直されたり,フォローされたりすることがない。
・エラー開示や謝罪がない。
このようなことのために,多くの患者・家族は自分の健康問題を取り扱ってもらっているにもかかわらず,医療に積極的に参加することができないでいます。診察室では医療専門職の話を黙って聞いて納得して診察室をあとにしているようにも思えますが,診察室の外では決して皆が十分に満足しているとは限りません。
患者・家族に,特に診断プロセスに積極的に関わり,診断エラーを減ずることに貢献してもらうためには,上記の課題を解消すべく,以下のようなことを患者・家族に常に心がけてもらうようにするのがよいでしょう2)。これをプリントアウトして,患者さんに渡すのもよいかもしれません。
■病歴は正確に漏れなく伝えましょう(病歴はしっかりまとめておきましょう)。
■検査や診察の記録をとっておきましょう。
■理解できるよう,わかりやすい説明をしてもらいましょう。理解できなければ質問しましょう。
■医療に関わる様々な人とのコミュニケーション,協働を行うようにしましょう。
■検査結果を必ず教えてもらうようにしましょう。
■治療経過を確認するための受診を確実に行いましょう(知らせがないのは良い知らせではありません)。
■他に考えられることはないか,担当医に尋ねてみましょう。
■診断には不確実性が伴うことを理解しましょう(現在の診断は,今後変わる可能性がある一時的なものであることを理解しておきましょう)。
そして,患者・家族には,以下のような質問をしてもらうことについて,積極的に診断プロセスに参加してもらうようにするとよいでしょう1)。これらの内容は,医療者が患者に説明すべきことでもあります。しかし,医療者が患者・家族にこれらのことを説明するよりも,患者・家族が医療者に質問するような習慣を持ってもらうようにするのがよいと思います。そうすることで,「常に自分も診断プロセスに参加し,診断について自分自身も一定の責任を持たなければならない」ということが自覚できるのではないでしょうか?
■私の病状の一番の問題は何ですか。
■診断にどのくらい自信がありますか。
■その自信を強めるために,さらにどんな検査をしますか。
■提案してくれた検査によって治療計画が変更になりますか。
■診断に合致しない所見や症状がありますか。
■他に可能性はありますか。
■診療録を頂いてセカンドオピニオンを受けることはできますか。
■検査結果はいつ教えて頂けますか。
■診断についてもっと知るには,どんな情報源がお勧めですか。
以下のようなまとめ方をしている研究者もいます2)。
■心配事:最も気になることを3つほど挙げてもらう
■最初に話し合いたいこと
■この診察でしてほしいこと
① 診断は何ですか? 他に考えられることはありますか?
② なぜそのような診断になったのですか? 検査結果からですか? 身体診察からですか?
③ 診断に関する情報をもらえますか? パンフレット? ウェブサイト?
④ お勧めの検査・治療を説明してもらえますか?
⑤ お勧めの検査・治療のリスクは何ですか? 何もしなかったらどうなりますか?
⑥ いつ再診する必要がありますか?
⑦ 症状が悪化したり,症状に変化がなかったり,治療に反応がなかったりしたら,どうすればよいのですか?
このような患者・家族からの質問に丁寧に答えることで,医療者は自身の診断推論を否が応でも振り返ることになります。また,もし答えられないことがあったとしたなら,それは医療の不確実性として患者・家族とともにそれに向き合う努力をしていくことになります。このようなしっかりとしたコミュニケーションをすることによって,診断エラーを少しは減らせると思います。