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はじめに─Dispositionって知っていますか?

登録日:
2024-04-24
最終更新日:
2024-04-24

「日本と米国の救急で違うことって何ですか?」と聞かれることがあります。

米国の救急医のトレーニングで最も重要視される項目の1つが「Disposition(転帰。入院や帰宅,後日紹介などを決めること)までの時間」です。もちろん,迅速に患者さんの転帰が決まっても,医療安全の懸念でmortality&morbidity(M and M)症例がたくさんあることは好ましくありません。ただ,米国の救急外来は常に混雑しています。そして,法律で救急車を断ることはできません。そんな米国の救急医は蘇生の能力やコモンな疾患を診療する能力に加えて,「的確なDispositionをいかに早く決定できるか?」ということが主要な評価の対象になっているのです。

日本の救急外来ではどうかというと,「丁寧さが大事」で「速い=拙速」,そんなとらえ方をされる風土があるようです。救急医がスピードを犠牲にして「それは内科に相談したほうが?」「救急科では脱臼整復をしないほうが?」「カテ室や病棟への連絡はそれぞれの専門科が……」などと躊躇することも多くあります。また,病院内の暗黙の了解で「採血結果がすべてそろわないと,電話がかけられない」「いろいろと質問がくるので,プレゼンテーションまでに入念な準備が必要」など,やるべきことも多くあります。他の専門科の医師からも「これをやってくれないのか?」「待ってほしい」「あとにしてほしい」などいろいろな注文をつけられます。

一方で,各部署の事情は大事ではあるものの,「Time is brain/muscle」という,迅速に治療を開始しよう! というコンセンサスも増えつつあります。たとえば,急性腹症の患者さんがいて反跳痛があり,CT撮影をした際に上部消化管穿孔に合致する所見があれば,採血結果がそろわなくても,外科への入院のプロセスは開始してよいでしょう。コンサルテーションの際に,外科病棟でのベッド確保について,救急医と外科医の間に共通理解があれば,入院のプロセスが早まります。

これらのことから,我々は本連載でDispositionをいかに早くするか? という視点でBR(L)EADのゴロで考えることをおすすめしています(詳細については第1回をご覧ください)。

Dispositionを念頭に置いて行動をしないと,結果として日勤帯に入院できたはずの患者さんが夜勤帯の入院になってしまう,救急が混雑して救急車のお断りになってしまう,医師や看護師の残業時間が増えて疲弊する,などいろいろな問題点が考えられます。

我々の診療では,日本では救急医の評価項目としては光をあてられにくい「Dispositionまでの時間」を大切にしています。ぜひお読み頂き,BR(L)EADアプローチによる問題解決の過程を体験して頂けたらと思います。それではさっそく連載第1回,スタートです。

志賀 隆(国際医療福祉大学救急医学主任教授)

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