3週前の正午頃,デスクワーク中に心窩部と背中の痛みを自覚した(図1)。1時間後に耐えがたいレベルに達したため,近医を受診したところ,血圧が180mmHgと高く救急病院へ紹介された。心電図,心臓超音波検査(UCG),腹部単純CTを含めた緊急検査で異常なく,アムロジピンとランソプラゾール処方にて帰宅となった。痛みは徐々に軽快して発症後1週間で消失したが,家人に勧められ当科を受診した。
経過中,消化器症状は認めない。既往歴は脂質異常症。事務職で,服薬,喫煙,飲酒歴に特記事項なし。
身体診察では,身長174.3cm,体重95.1kg,BMI 31.3,血圧153/107mmHg,脈拍75回/分(整)。心音,呼吸音に異常なし。腹部は平坦・軟だが,心窩部に最強点を有する圧痛を上腹部全体に認める。腹膜刺激徴候はない。
急性胃腸炎は高頻度疾患であるが,消化器症状を伴っておらず,また血圧上昇がみられたため,循環器系疾患の除外が必要である。1時間でピークに達する急性発症の心窩部痛であることから,腹部血管病変を疑って造影CTを撮影したところ,腹腔動脈解離を認めた(図2・3)。
発症後3週経過しており,腹腔動脈の末梢血流が十分に保たれていたため,保存的に経過を診る方針とした。なお,健康診断では数年前から高血圧を指摘されていたことが後に判明した。
腹腔動脈解離の99%に腹痛がみられ1),典型的には突発する心窩部や臍上部の痛みである。近接する上腸間膜動脈解離とは症状が類似し,いずれも診断には造影CT検査が必要となる。非外傷性腹腔動脈解離の危険因子は高血圧,喫煙,脂質異常症である1)。
保存的加療,血管内治療,開腹手術が適宜選択されるが,保存的加療を行った患者のうち6.6%で腹腔動脈の瘤化が認められるため,画像検査によるフォローアップが必要である1)。
【文献】
1) Cavalcante RN, et al:Ann Vasc Surg. 2016;34: 274-9.