□運動麻痺の急性期診療において重要なのは,多彩な原因疾患・病態の中からtime-critical treatmentsにより,アウトカムが左右される疾患を鑑別することである。time-critical treatmentsには,超急性期脳梗塞に対するrecombinant tissue plasminogen activator(rt-PA)静注療法や超急性期血行再建術,脳内出血に対する外科的処置,ギラン・バレー症候群に対する免疫グロブリン大量静注療法などが挙げられる。
□適切な臨床的評価はtime-critical treatmentsを要する患者の治療に直結するため,病変部位を詳細な病歴や的確な診察より推定し,各々に必要な検査を施行することが重要である。
□運動麻痺の病歴聴取のポイントは,病変部位を推定すること,鑑別診断を考えていくこと,time-critical treatmentsを見逃さないように発症様式,部位診断,随伴症状の有無などを考慮し,行う。time-critical treatmentsによりアウトカムが左右される疾患を病変部位別にまとめた(表)1)。
□発症様式:現病歴で,突然発症したか,段階的に発症したか,急性(数時間~数日),亜急性(数日~数週),慢性(数カ月~)を聴取する。
□病巣部位診断:病巣部位の推定は,適切な検査を施行しcritical treatmentにつなげるために重要である。次の身体診察のポイントを考慮し,大脳半球,脳幹,脊髄,神経根,末梢神経,神経筋接合部,筋にわけて病巣部位を推定する。
□糖尿病,高血圧症,脂質異常症,心房細動等の既往歴を聴取する。
□喫煙,飲酒等の嗜好歴,脳卒中などの疾患の家族歴,糖尿病薬,抗血栓症薬等の内服の有無を聴取する。
□運動麻痺以外の神経症状の有無を聴取する。
□運動麻痺は,ウイルス感染,薬剤,中毒,ビタミン欠乏によっても生じるため,詳細な問診が不可欠である。
□来院時,直ちに蘇生のABC(実際にはCABの順)の評価とバイタルサインを把握する。特に血圧と発熱の評価は重要で,血圧は必ず左右差を確認する。脳卒中急性期では血圧が高い可能性が高く,収縮期血圧>150mmHg(OR 1.70),拡張期血圧>90mmHg(OR 1.95)で脳卒中をより示唆する2)。
□大脳半球:片麻痺が多いが単麻痺もある。運動麻痺以外に下記の随伴症状があれば大脳半球・脳幹が病巣である可能性は高くなる。大脳皮質症状(失語,失行,高次脳障害など),顔面神経麻痺,運動麻痺側の感覚障害,構音障害,眼球共同偏倚(患側を向く)などをみる。
□脳幹:片麻痺が多いが交代性片麻痺も生じうる。複視,眼球共同偏倚(健側を向く),めまい,顔面の感覚障害,構音障害,嚥下障害などの有無を確認する。
□脊髄:片麻痺,単麻痺,対麻痺,四肢麻痺になりうる。脳神経症状の出現は少ない。疼痛を伴うことは稀であるが,脊髄梗塞や脊髄硬膜外血腫では疼痛を伴いうるために注意が必要である。(筋)線維束性収縮の有無を確認する。
□障害レベル以下の感覚障害,遠位筋優位の筋力低下,深部腱反射亢進,自律神経障害,脊髄性失調性歩行を確認する。
□神経根:上下肢に疼痛を伴うことが多い。下肢伸展挙上や頸部回旋などで痛みの悪化の有無を確認する。
□末梢神経:遠位筋優位の筋力低下,深部腱反射減弱・消失,筋萎縮,四肢末梢の感覚障害の有無を確認する。
□神経筋接合部:易疲労性,反復筋力テストによる筋力低下がみられる。
□筋:感覚障害はない。対称性の近位筋優位の筋力低下がみられる。
□その他:企図振戦や測定障害などの小脳失調の有無,眼振の有無を確認する。
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