□嘔気・嘔吐を放置しない。嘔吐は気道閉塞や血圧上昇のリスクとなる。また経口摂取が不可能な状況が続けば,脱水・ショックになりうる。
□"嘔気・嘔吐=消化器疾患"と思い込まない。特に循環不全,頭蓋内圧亢進,致死的胸痛には留意が必要である。
□強い痛みに伴う嘔気・嘔吐では,原疾患の治療も重要である。
□年齢・性別からリスクを加味して疾患を想定する。乳幼児では腸重積,思春期男性では精巣捻転,高齢女性では急性冠症候群,などがある。
□基礎疾患・既往歴からリスクを加味して疾患を想定する。たとえば,開腹術後:癒着性イレウス,脳動脈瘤の既往:くも膜下出血,インスリン依存性糖尿病:糖尿病性ケトアシドーシス,喘息:テオフィリン中毒・β刺激薬中毒,などが挙げられる。
□地域的な流行状況やsick contactの有無を把握し,感染症の可能性を考慮する。ノロウイルスの集団感染,海外渡航者の輸入感染症,などがある。
□嘔気・嘔吐に伴う随伴症状の有無と,症状出現の順序を把握することで想定した疾患を絞り込む。たとえば,"嘔吐先行→腹痛続発"であれば虫垂炎の可能性は下がる。"頭痛先行→麻痺症状→嘔吐続発"であれば脳出血を考慮する,などである。
□その他,様々な随伴症状と留意すべき疾患について表1にまとめた。
□消化管が関与していると思われる場合,経口摂取した食物を確認する。直近の食事のみではなく,過去1週間程度の摂食歴を確認する。
□同居家族や親しい友人,職場の同僚など,周囲での同様の症状の出現の有無,および接触状況について聴取する。
□海外渡航歴の有無を確認し,渡航歴がある場合には経由地も含めた渡航先と期間の確認を行う。
□嘔吐により嘔気が軽快:消化管疾患,頭蓋内圧亢進を考慮する。
□嘔吐しても嘔気の改善なし:持続するショック,臓器血流障害の持続(心筋梗塞)などを考慮する。
□経口摂取により嘔気が増悪:消化管疾患,頭蓋内圧亢進を考慮する。
□経時的に嘔吐の頻度が増加:原病の増悪,頭蓋内圧亢進を考慮する。
□意識障害:誤嚥に伴う低酸素,ショック,頭蓋内圧亢進,などの存在を疑う。
□血圧低下+頻拍:ショックに伴う嘔気・嘔吐と判断してショックの原因を探すとともに,嘔吐による脱水を考慮する。
□血圧低下+徐拍:ショックの中でも特殊な病態が存在する可能性を考える。低体温症,右室梗塞・下壁梗塞,高度のアシドーシス,高カリウム血症,薬物中毒,高度低酸素,などがなければ嘔気や疼痛による迷走神経反射を考える。
□頻呼吸+SpO2正常:アシドーシスや強い疼痛の存在,その原因となる臓器虚血の存在などを考える。
□頻呼吸+SpO2低下:吐物の誤嚥による低酸素や,低酸素による嘔気を考える。
□血圧上昇+頻拍:内因性カテコールアミンによる反応が考えられ,多彩な病態が考えられる。
□血圧上昇+徐拍:脳ヘルニアに伴うCushing徴候の可能性を考えるため,神経学的評価も行う。高度房室ブロックの可能性も考える。
□乾燥した皮膚と粘膜,眼科陥凹,尿量減少:脱水のサインである。
□紅潮した皮膚と粘膜,乾燥した皮膚,頻脈:アナフィラキシーや敗血症のサインである。
□皮膚湿潤や冷汗,皮膚蒼白,頻脈:末梢循環不全や急性冠症候群,くも膜下出血などによるカテコールアミン放出のサインである。
□瞳孔の左右差,両側縮瞳,四肢の運動左右差,顔面の運動左右差,構音障害など:脳卒中のサインである。
□腸蠕動音の亢進,鼓腸:急性胃腸炎の可能性がある。
□機械音の聴取,腹部膨満:イレウスの可能性がある。
□腹膜刺激症状(筋性防御,反跳痛など):腹膜炎をきたす疾患の可能性がある。
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