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ST上昇型急性心筋梗塞

登録日:
2017-03-16
最終更新日:
2017-06-14
小菅雅美 (横浜市立大学附属市民総合医療センター心臓血管センター客員准教授)
木村一雄 (横浜市立大学附属市民総合医療センター心臓血管センター部長/教授)
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  • ■疾患メモ

    ST上昇型心筋梗塞は,冠動脈粥腫の破綻により冠動脈内腔に血栓が形成され,冠動脈が閉塞し心筋壊死を生じた病態である。

    予後を改善する確立された治療法は,発症早期の再灌流療法であり,早期診断・早期治療が重要である。

    再灌流療法には,血栓溶解療法と冠動脈インターベンション(percutaneous coronary intervention:PCI)が挙げられるが,わが国ではPCIが広く行われている。近年,再灌流療法の普及により急性期死亡率は低下したが,慢性期死亡率は下げ止まりの傾向にあり,長期予後の改善には特に心不全への対応が重要である。

    ■代表的症状・検査所見

    【症状】

    典型的な例では,胸部症状が少なくとも20分以上持続するとされているが,実際に症状は多彩であることを認識しておく必要がある。

    性状は,「痛い」というよりも,むしろ「重苦しい」「締め付けられる」「圧迫されるような感じ」などと表現されることのほうが多い。

    症状は胸部だけでなく,顎,咽頭・頸部,肩,背部,心窩部,腕に放散したり,これらの部位に限局することもある。

    冷汗,吐気・嘔吐,息苦しさなどの随伴症状を伴うことが多く,心筋梗塞を疑う所見として重要である。

    【検査所見】

    〈心電図〉

    急性心筋梗塞症の早期診断で,心電図は最も簡便で有用な検査である。冠動脈閉塞後には,まずT波の尖鋭・増高を認め,その後STが上昇,R波は減高し,異常Q波の出現を認め,そしてT波が陰転化する。特に,急性期のST上昇の存在は再灌流療法の適応を決定する重要な所見である。心筋梗塞急性期に心電図は時々刻々と変化する。このため,初回心電図で診断できない場合でも,症状から急性心筋梗塞が強く疑われる場合には5~10分ごとに繰り返し心電図を記録し診断する。また後壁梗塞は12誘導心電図では診断が難しく,背側部誘導の記録が診断に有用である。

    〈心筋マーカー〉

    心筋特異性と検出感度の高い心筋トロポニンが急性心筋梗塞診断の中心となっている(心筋トロポニンの測定ができない場合はCK-MBの測定が推奨されている)。しかし,心筋トロポニンは発症してから3~4時間経たないと上昇しないことが多い。このため症状出現後数時間以内の例では,心筋トロポニンの上昇を認めないからといって急性心筋梗塞を否定できないことに留意する。最近では,高感度トロポニン測定計が使用可能となり,その高い測定精度により急性心筋梗塞の超急性期の診断能は向上しているが,心筋トロポニンは心筋虚血以外の原因でも上昇することがあるため注意する必要がある。

    〈心エコー検査〉

    梗塞部位,心機能,機械的合併症(左室自由壁破裂,心室中隔穿孔,乳頭筋断裂による僧帽弁閉鎖不全)を迅速に評価することが可能である。また,急性大動脈解離,急性肺塞栓,急性心膜炎,たこつぼ型心筋症など,他の胸痛疾患との鑑別にも有用である。

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