□麻疹は麻疹ウイルスによる急性感染症で,空気感染,飛沫感染,接触感染で感染伝播する。感染後約10~12日の潜伏期を経て発症するが,肺炎や脳炎を合併して生命に関わる場合がある。臨床診断した時点で直ちに最寄りの保健所への届出が義務づけられており,全例の検査診断が求められている1)。国を挙げた対策が功を奏し,2015年3月にWHO西太平洋地域事務局から麻疹の排除状態であることが認定された2)。今後は排除の維持を目標として,麻疹風疹混合ワクチン(以下,MRワクチン)による2回の定期予防接種率をそれぞれ95%以上にする必要がある。海外にはまだ流行国が多く残されていることから,渡航前の予防接種歴・罹患歴の確認と,感受性者は渡航前にワクチンを受けること,国内で患者が1人でも発生したら,その時点で迅速な対応が必要である3)。
□発熱,カタル症状,眼脂を伴う眼球結膜の充血などの症状が数日間続いた後,口腔粘膜に麻疹に特徴的とされる粘膜疹(コプリック斑)が出現する(カタル期)。この時期の感染力が最も強い。
□コプリック斑が出現すると,発熱はいったん下がったかのようにみえるが(1℃程度下降),翌日には39~40℃台の高熱となり,耳後部付近から鮮紅色紅斑が出現し,顔面,躯幹,四肢へと1~2日中に拡大する(発疹期)。発疹期は高熱で,カタル症状はよりいっそう激しくなり,この期間が数日間続く。回復後,発疹は色素沈着を残す。
□合併症を併発しなければ1週間程度で回復傾向となるが,免疫機能が抑制された状態が長期間持続する4)。
□肺炎,中耳炎の合併頻度が高く,下痢も多くみられる。クループ症状を認めることも多い。細菌の二次感染も多くみられる。細胞性免疫が低下することから,ツベルクリン反応の陰性化,結核の再燃なども認められる。0.1%程度と頻度は高くないが,発疹期の終わりに脳炎を合併することがある。麻疹脳炎はきわめて重篤で致命率も高く,治癒しても重度の後遺症を残す頻度が高い。また,麻疹が治癒してから数年~10年程経過してから発症する亜急性硬化性全脳炎(subacute sclerosing panencephalitis:SSPE)は麻疹患者約10万人に1人の割合で発症する,きわめて予後不良の脳炎である。
□移行抗体が残存している乳児,予防接種後の免疫の獲得が不十分であった場合,麻疹の予防に人免疫グロブリン製剤の投与をした場合などでは,症状が典型的ではなく比較的軽症の修飾麻疹を発症することがある。その場合でも,感染源になる。
□白血球数の減少(リンパ球数の減少),血小板数の減少,AST,ALT,LDHの上昇が認められる。CRPは細菌の二次感染を合併しなければ高値にならない。
□発疹出現から1週間以内に,血液,咽頭ぬぐい液,尿の3点セットを最寄りの保健所を通して地方衛生研究所に搬送することにより,RT-PCR法あるいはリアルタイムRT-PCR法を用いた麻疹ウイルス遺伝子の検出,あるいは麻疹ウイルスの分離が実施される1)。
□発疹出現後4~28日に麻疹特異的IgM抗体価を測定する(健康保険適用あり)1)。
□急性期と回復期(2週間以上の間隔を空ける)のペア血清で麻疹特異的IgG抗体価,HI抗体価,中和抗体価などの測定を実施して,抗体価の陽転あるいは有意上昇を確認する。
□修飾麻疹の場合は,麻疹特異的IgM抗体あるいは麻疹ウイルス遺伝子の検出が困難な場合がある。急性期から麻疹特異的IgG抗体価が著明な高値を示すことが多く,診断の参考となる。
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