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鳥インフルエンザ[私の治療]

No.5269 (2025年04月19日発行) P.52

関 雅文 (埼玉医科大学医学部国際医療センター感染症科・感染制御科教授)

登録日: 2025-04-19

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  • 鳥インフルエンザは,本来は鳥の間で流行するインフルエンザウイルスのヒトへの感染症である。特にA型インフルエンザであるA(H5N1)型とA(H7N9)型が知られている1)2)
    鳥インフルエンザA(H5N1)ウイルスは,1996年に中国広東省の鳥から初めて分離され,日本を含むアジア各国で鳥における感染が確認されている。ヒト感染症としては,1997年の香港での事例を発端に,2003年から2024年2月26日まででは世界23カ国からA(H5N1)型の確定症例が計887例,うち死亡462例(致命率52.1%)が報告されている1)。2020年以降の発症者は26人,うち死亡は7例である。いまだ継続的なヒト-ヒト感染伝播は認められていない1)2)
    一方,鳥インフルエンザA(H7N9)ウイルスによるヒトへの感染事例は,2013年3月31日に中国政府から報告され,以後,主に中国本土や香港から2022年5月6日までに1568例が報告されており,うち少なくとも616例(39.3%)が死亡している1)2)

    ▶診断のポイント

    ヒトには,感染した家禽やその排泄物,死体,臓器などに濃厚に接触することで稀に感染するため,これらの接触歴を確認することがきわめて重要である1)

    A(H5N1) 型 では潜伏期はおおむね2~8日,初期症状の多くが,高熱と急性呼吸器症状を主とするインフルエンザ様疾患の症状を呈する。下気道症状は早期に発現し,呼吸窮迫,頻呼吸,呼吸時の異常音がよく認められ,臨床的に明らかな肺炎が多くみられる。呼吸不全が進行した例では,びまん性のすりガラス様陰影が特に発症3日目くらいから両肺に認められ,急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の臨床所見を呈する。死亡例は発症から平均9~10日(範囲6~30日)目に発生し,進行性の呼吸不全による死亡が多くみられる2)

    A(H7N9) 型 では潜伏期は1~10日(多くは2~5日), 症状はA(H5N1) 型 とほぼ共通するが,二次感染,脳症,横紋筋融解症に進展した報告がある。発症から死亡までの中央値は11日(四分位範囲7~20日)であり,進行性の呼吸不全等による死亡が多い2)

    いずれも38℃以上の発熱や咳嗽,呼吸困難感のほか,下痢や筋肉痛を訴えることが多く,検査所見上では末梢白血球数,特にリンパ球減少や血小板減少,ほかにASTやLDH,CK上昇などが認められる。

    病原体の診断は,喀痰など主に呼吸器検体からのウイルスRNAをRT-PCRなど遺伝子検査で検出することによってなされる1)。季節性インフルエンザでよく用いられるインフルエンザ抗原に対する迅速診断キットでは,必ずしも季節性インフルエンザ同様に診断できるか担保されていないため注意を要する。

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