□それまでわが国には存在しないと考えられていた紅斑熱群リケッチア症が,1984年に徳島県で初めて確認されて以来,西日本を中心に確定症例が報告された。最近では年間240例(2014年集計)の届け出がみられ,その感染地域は北上を続けている。
□日本紅斑熱は同じリケッチア感染症であるつつが虫病にきわめて類似する臨床症状を呈するが,まったく異なる病原体Rickettsia japonicaによる感染症である。マダニがベクターとなるため,特有の刺し口が診断のために重要な所見となる。夏から秋に発症することが多い。潜伏期は2~8日と,つつが虫病より短い傾向にある。
□治療はテトラサイクリン系薬が第一選択となるが,ときに有効性の得られない症例も経験され,キノロン系薬との併用も推奨されている。本症は感染症法の4類感染症に分類され,診断されれば直ちに保健所に届け出る必要がある。
□急性の発熱,発疹および刺し口の存在が3主徴である。刺し口(図)はつつが虫病に比べやや小さい傾向がある。刺し口を確認するためには全身くまなく確認する必要がある。発疹は高熱とともに四肢から体幹部に求心性に広がり,米粒大から小豆大の辺縁が不整型の紅斑として出現する。時に出血性となる。リンパ節腫脹はつつが虫病より少ない。
□本症でもつつが虫病と同様に,血管炎に起因する臓器障害として,肺病変,肝病変および中枢神経障害を生ずることがある。重症例では高サイトカイン血症を示し,全身性炎症反応症候群(systemic inflammatory response syndrome:SIRS)に至る。
□抗体検査による陽性診断基準は他の微生物診断と同様,急性期のIgM抗体の検出か,急性期と回復期のペア血清によるIgG抗体価の4倍以上の優位な上昇である。しかし抗体検出は現状では商業的検査機関ではまったく対応できず,国立感染症研究所および一部の地方衛生研究所,ならびに一部の大学等研究機関に依頼しなければ実施できない。近年,瘡蓋(刺し口)や紅斑部の皮膚を用いた遺伝子診断法(polymerase chain reaction:PCR)の検出効率が優れていることがわかり,一部の機関で実施されている。
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