□扁平母斑とカフェオレ斑は,その形状や色・大きさで区別できない。
□わが国では,たとえば,神経線維腫症1(neurofibro-matosis type1:NF1)やMcCune-Albright症候群などの1つの症候として生じた場合,カフェオレ斑と称し,それ以外を扁平母斑と呼ぶ傾向がある。また,欧米でのnevus spilusとわが国での扁平母斑の定義が異なっているため,混乱をまねく恐れがある。
□遺伝的背景による分類が好ましいが,いまだ遺伝子変異については不明な点も多いため,歴史的背景を理解した上での用語使用は,むしろ妥当であると考える。
□扁平母斑は,日本では健常人の約10%にみられるという報告がある。欧米での報告では,単発のカフェオレ斑を持つ子どもは25%,全人口でも10%に達すると言われるが,3個以上のカフェオレ斑を持つ健康な子どもは0.2~0.3%と限定されてくる。
□扁平母斑は,円形から楕円形,時に地図状で,辺縁は滑らかあるいは鋸歯状で,はっきりとした境界を持つが,大きさは様々である。
□均一なミルクコーヒー色から濃い褐色に至るまで様々であるが,色素斑内に色の濃淡はみられない。
□新生児ではわかりにくいことがあるが,多くは出生時から,遅くとも学童期までにははっきりし,その後に数が増えることはない。辺縁がより不規則あるいは不鮮明であり,不均一な色合い(刷毛で描いたような)の色素斑もある。
□欧米では褐色斑内により色が濃い小色素斑や丘疹(色素性母斑)を生じるものをspeckled lentiginous nevusと呼び,扁平母斑(nevus spilus)とほぼ同義語として扱われている。
□speckled lentiginous nevusには,2つの異なるタイプが含まれる。
□褐色斑内に生じる小色素斑は完全に平坦であり,ほぼ均等に分布している。NSMを合併する病態は知られていないが,例外としてphacomatosis spiloroseaがある。これは,色素血管母斑症の1つとして理解されており,淡い紅色を示すnevus roseusとNSMの併存である。phacomatosis spiloroseaは,左右下肢の非対称性や脊椎側弯,片側性リンパ浮腫,てんかん発作や片側麻痺を合併することがある。
□丘疹は不均等に分布している。さながら星図のようである。NSPは,speckled lentiginous nevus syndromeやphacomatosis pigmentokeratotica(PPK)に合併することが知られている。
□PPKとは,表皮母斑症候群の1つであり,Blaschko lineに一致した脂腺母斑とNSPが特徴である。この脂腺母斑から毛包脂腺系や汗腺系の良性・悪性の二次性腫瘍を生じ,稀ながら腎芽腫やくる病を合併することがある。
□これらのPPKに生じる腫瘍や病変からは共通したHRasやKRasの遺伝子変異が見つかり,病変でない部分(たとえば,血液や正常皮膚)からは変異が見つからない。すなわちPPKは受精後の胎生期,限定された細胞にHRasやKRasの変異を生じた結果,生じてくると考えられている。
□褐色の色素斑を多発する疾患としてNF1をまず考えるが,褐色の色素斑(カフェオレ斑)以外のNF1に特徴的な他の症候がない場合,鑑別すべき疾患がある。
□たとえば,個々の色素斑の色調が異なる,色素斑の辺縁が鋸歯状であったり,色素斑がより広い皮膚の領域にみられる場合,ring chromosome症候群(ring chromosome12症候群やring chromosome17症候群など),ミスマッチ修復遺伝子異常のある疾患やMcCune-Albright症候群などを考える。
□もし,カフェオレ斑の分布が限られた領域のみにみられるときはNF1モザイクを考慮し,色調や辺縁はNF1にみられるカフェオレ斑と大差ないが,個数が6個に満たないときは神経線維腫症2(NF2)なども考えておく。
□Becker母斑と呼ばれる遅発性の扁平母斑が知られている。これは,思春期頃に生じる,肩甲部から前胸部に好発する境界鮮明,辺縁は鋸歯状の有毛性褐色斑で,表面にややざらざらした感触を持つ。腹部,四肢にも生じることがある。表皮は乳頭腫様増殖や肥厚,真皮に平滑筋過形成を見ることがある。
□Legius症候群は,Ras-MAPK cascadeに抑制的に働くSPRED1遺伝子変異によるが,カフェオレ斑とskinfoldにfrecklesが多発し,色素斑のみではNF1と臨床的に区別できない。
□ただし,Legius症候群は,虹彩小結節(Lisch結節),骨の変形,視神経膠腫そして神経線維腫や悪性末梢神経鞘腫瘍(malignant peripheral nerve sheath tumor:MPNST)の発生を欠くことが特徴である。
□ミスマッチ修復遺伝子異常のある疾患としてconsti-tutional mismatch repair deficiency syndrome(CMMRDS)が知られているが,本疾患は,劣性遺伝形式をとる。すなわち,ミスマッチ修復遺伝子(MLH1,MSH2,MSH6,PMS2)のいずれかが両アレルともに変異を持つ場合発症する。その皮膚病変は辺縁鋸歯状のカフェオレ斑と色素脱出斑である。
□体細胞変異の結果,NF1分節型モザイクあるいはNF1全身型モザイクが合併している症例も稀に存在していると言われている。
□CMMRDSの子どもたちは中枢神経系の悪性腫瘍や骨髄増殖性疾患を生じるリスクが高いだけでなく,若年発症の大腸癌を合併する。CMMRDSは,成人で発症するLynch症候群に似ている。
□speckled lentiginous nevusと鑑別を必要とする疾患にpartial(segmental)unilateral lentiginosisが挙げられるが,これはNF1モザイクと同一スペクトラム上にあり,NF1モザイクの1つの型と考えられている。
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