株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

FOCUS:アトピー性皮膚炎診療の変革 〈新規治療を使いこなす〉

No.5273 (2025年05月17日発行) P.11

本田哲也 (浜松医科大学皮膚科学講座教授)

登録日: 2025-05-16

最終更新日: 2025-05-14

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

浜松医科大学皮膚科学講座教授

本田哲也

2000年京都大学医学部卒業。皮膚科医。京都大学大学院医学研究科皮膚科学講座,神経細胞薬理学講座,National Institutes of Healthなどを経て,2020年より現職。臨床・研究ともに専門は皮膚免疫・炎症性疾患。著書に『新薬はこう使え! かかりつけ医で診るアトピー性皮膚炎』(診断と治療社),『今と未来がわかる 皮膚の科学』(ナツメ社)(監修)など。

私がつたえたいこと

◉アトピー性皮膚炎の治療は全身療法,外用療法ともに近年急速に進歩し,様々な選択が可能となっている。

◉新規治療は従来治療に比べ,少ない副作用で高い治療効果を発揮することが大いに期待される。

◉アトピー性皮膚炎の治療ゴール(症状がないか,あっても軽微で,日常生活に支障がなく,薬物療法もあまり必要としない状態に到達し,それを維持すること)も現実的なものとなりつつある。

◉新規治療は患者・医療経済に与える影響も大きいため,適応をよく見きわめ,適切に使用することが肝心である。

❶ はじめに

アトピー性皮膚炎は日常的に遭遇する皮膚疾患にもかかわらず,その病態の理解,また病態に基づいた治療はこれまで十分ではなかった。たとえば,アトピー性皮膚炎の代表的症状である「痒み」がなぜ生じるのか,そのメカニズムはほとんどわかっていなかった。しかし近年,アトピー性皮膚炎の病態理解は大きく進んだ。それに伴い,病態に根差した治療法は爆発的に進歩し,続々と新規治療法が臨床応用されている。診療ガイドラインもこの数年で大きく変化した。

本稿では,急速に進歩するアトピー性皮膚炎診療の変遷と現状について,新規治療を中心に概説する。なお,個々の項目の詳細は,末尾に記した参考文献を参照されたい。

アトピーとは?
アトピー性皮膚炎のアトピーとは,古代ギリシャ語の「奇妙な」「とらえどころのない」を意味する「atopos」「atopia」に由来した造語である。その名の通り,アトピー性皮膚炎の病態は近年まで不明な点が多く,様々な学説が登場してきた。

❷ アトピー性皮膚炎診療の変遷と現状

(1) アトピー性皮膚炎診療のこれまで:ステロイド外用薬

アトピー性皮膚炎は,日本および世界的にも最も代表的な慢性炎症性皮膚疾患である。日本における統計では,小児期では10%前後の有症率と報告されている。成人になるにつれてその率は徐々に低下するものの,外来診療で遭遇する頻度の高い皮膚疾患のひとつであり,医療関係者のみならず一般の人々にも広く認知されている。

近年までのアトピー性皮膚炎の治療は,極論ではあるが,ステロイド外用薬がほぼそのすべてであった。ステロイド外用薬はその効力の強さ,性状(軟膏,クリーム,ローションなど)でいくつかに分類される。それぞれに使いわけはあるものの,そのメカニズムは基本的には共通している。そして,アトピー性皮膚炎の治療は,それらステロイド外用薬,および保湿薬を駆使する時代が長らく続いていた(1)。


部位によるステロイド外用薬の効果のちがい
ステロイドの経皮吸収率は部位によって大きく異なる。顔面は皮膚が薄く,また毛包脂腺系が発達していることから,その吸収率が高い。一方,手掌足底は厚い角層があり,吸収率は比較的低い。したがって,同じ薬剤でも塗布部位により効果・副作用が異なってくる。

(2) ステロイド外用療法の課題

確かにステロイド外用薬は強力な炎症抑制作用,痒み抑制作用を持ち,短期的な病勢コントロールにおいては非常に有用な治療薬である。外用に伴う刺激感もほとんどなく,また安価であることから,現在でも,アトピー性皮膚炎診療において,なくてはならないものとなっている。しかし,ステロイド外用薬は長期使用に伴う副作用が問題であった。

ステロイド内服薬に比べると全身的副作用は少ないものの,外用部位における局所的副作用は長年の課題であった。その代表としては,皮膚萎縮,毛包炎(ざ瘡),ステロイド酒さ(酒さ様皮膚炎),が挙げられる。皮膚萎縮の結果,物理的刺激により容易に皮下出血,場合によっては皮膚剥離が引き起こされる。顔面における長期のステロイド外用薬使用は,酒さ様皮膚炎を生じうる(12)。その副作用を認識していない場合,赤みを抑えるためにさらにステロイドの使用が行われ,悪循環に陥る。



ステロイドは悪者か?
ステロイドは,一時その副作用が過剰に取り上げられ,バッシングにつながった。その結果,適切な治療を受けられず,コントロール不良な患者が多く発生した。しかし,ステロイド外用薬は,その副作用に注意しながら専門医が適切に使用すれば,今日においても効果・経済性に優れた薬剤である。

このような副作用があるものの,ステロイド外用薬に代わる有効なアトピー性皮膚炎治療薬が存在しなかったため,皮膚科医はステロイド外用薬を中心にその治療を行わざるをえなかった。もっとも,熟練した皮膚科医がステロイド外用薬を適切に使用することで,多くの患者において一定のコントロールは可能となっていた。しかし,必ずしもその患者満足度は十分ではない場合もあり,また,既存治療においては症状コントロールがきわめて不良な患者も,一定数存在していた。

(3) アトピー性皮膚炎診療の変革

しかし2018年に,アトピー性皮膚炎における初の生物学的製剤(デュピルマブ)が登場したことを皮切りに,アトピー性皮膚炎診療は劇的に変化した。この薬剤の登場により,アトピー性皮膚炎は,『アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2024』1に記載されている治療目標の「症状がないか,あっても軽微で,日常生活に支障がなく,薬物療法もあまり必要としない状態」が,現実的に見えるようになった。以後,毎年のように新規全身療法や新規外用療法が登場し,アトピー性皮膚炎の治療方針,治療目標達成の実現性は新展開を見せている(3)。以後,デュピルマブを含めた2018年以降に登場した治療薬を「新規治療」,それ以前の治療薬を「従来治療」と便宜上定義する。


関連書籍 診療所で診る皮膚疾患 第3版:中村健一著,A4判,310頁。生物学的製剤,JAK阻害薬,その他の分子標的薬の登場により「革命」が起きつつある皮膚科診療。最新の薬剤事情や,湿疹皮膚炎などの定番疾患について,非専門医でも処方できる新しい薬剤の情報を交えて解説。よくある患者の訴え別に,遭遇頻度の高い本当にマークすべき疾患のみを厳選し,個別疾患の診断,治療,患者説明のポイントを豊富な症例写真とともに提供。

この記事はWebコンテンツとして単独でも販売しています

プレミアム会員向けコンテンツです
→ログインした状態で続きを読む

関連記事・論文

もっと見る

関連書籍

もっと見る

関連物件情報

もっと見る

page top