◉アトピー性皮膚炎の治療は全身療法,外用療法ともに近年急速に進歩し,様々な選択が可能となっている。
◉新規治療は従来治療に比べ,少ない副作用で高い治療効果を発揮することが大いに期待される。
◉アトピー性皮膚炎の治療ゴール(症状がないか,あっても軽微で,日常生活に支障がなく,薬物療法もあまり必要としない状態に到達し,それを維持すること)も現実的なものとなりつつある。
◉新規治療は患者・医療経済に与える影響も大きいため,適応をよく見きわめ,適切に使用することが肝心である。
アトピー性皮膚炎は日常的に遭遇する皮膚疾患にもかかわらず,その病態の理解,また病態に基づいた治療はこれまで十分ではなかった。たとえば,アトピー性皮膚炎の代表的症状である「痒み」がなぜ生じるのか,そのメカニズムはほとんどわかっていなかった。しかし近年,アトピー性皮膚炎の病態理解は大きく進んだ。それに伴い,病態に根差した治療法は爆発的に進歩し,続々と新規治療法が臨床応用されている。診療ガイドラインもこの数年で大きく変化した。
本稿では,急速に進歩するアトピー性皮膚炎診療の変遷と現状について,新規治療を中心に概説する。なお,個々の項目の詳細は,末尾に記した参考文献を参照されたい。
アトピー性皮膚炎は,日本および世界的にも最も代表的な慢性炎症性皮膚疾患である。日本における統計では,小児期では10%前後の有症率と報告されている。成人になるにつれてその率は徐々に低下するものの,外来診療で遭遇する頻度の高い皮膚疾患のひとつであり,医療関係者のみならず一般の人々にも広く認知されている。
近年までのアトピー性皮膚炎の治療は,極論ではあるが,ステロイド外用薬がほぼそのすべてであった。ステロイド外用薬はその効力の強さ,性状(軟膏,クリーム,ローションなど)でいくつかに分類される。それぞれに使いわけはあるものの,そのメカニズムは基本的には共通している。そして,アトピー性皮膚炎の治療は,それらステロイド外用薬,および保湿薬を駆使する時代が長らく続いていた(図1)。
確かにステロイド外用薬は強力な炎症抑制作用,痒み抑制作用を持ち,短期的な病勢コントロールにおいては非常に有用な治療薬である。外用に伴う刺激感もほとんどなく,また安価であることから,現在でも,アトピー性皮膚炎診療において,なくてはならないものとなっている。しかし,ステロイド外用薬は長期使用に伴う副作用が問題であった。
ステロイド内服薬に比べると全身的副作用は少ないものの,外用部位における局所的副作用は長年の課題であった。その代表としては,皮膚萎縮,毛包炎(ざ瘡),ステロイド酒さ(酒さ様皮膚炎),が挙げられる。皮膚萎縮の結果,物理的刺激により容易に皮下出血,場合によっては皮膚剥離が引き起こされる。顔面における長期のステロイド外用薬使用は,酒さ様皮膚炎を生じうる(表1,図2)。その副作用を認識していない場合,赤みを抑えるためにさらにステロイドの使用が行われ,悪循環に陥る。
このような副作用があるものの,ステロイド外用薬に代わる有効なアトピー性皮膚炎治療薬が存在しなかったため,皮膚科医はステロイド外用薬を中心にその治療を行わざるをえなかった。もっとも,熟練した皮膚科医がステロイド外用薬を適切に使用することで,多くの患者において一定のコントロールは可能となっていた。しかし,必ずしもその患者満足度は十分ではない場合もあり,また,既存治療においては症状コントロールがきわめて不良な患者も,一定数存在していた。
しかし2018年に,アトピー性皮膚炎における初の生物学的製剤(デュピルマブ)が登場したことを皮切りに,アトピー性皮膚炎診療は劇的に変化した。この薬剤の登場により,アトピー性皮膚炎は,『アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2024』1)に記載されている治療目標の「症状がないか,あっても軽微で,日常生活に支障がなく,薬物療法もあまり必要としない状態」が,現実的に見えるようになった。以後,毎年のように新規全身療法や新規外用療法が登場し,アトピー性皮膚炎の治療方針,治療目標達成の実現性は新展開を見せている(図3)。以後,デュピルマブを含めた2018年以降に登場した治療薬を「新規治療」,それ以前の治療薬を「従来治療」と便宜上定義する。
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