□聴力検査結果からは難聴が認められているにもかかわらず,得られた聴力レベルを説明できるだけの器質的な異常が認められない状態を機能性難聴と言い,その中で心理的要因によって発症したものを心因性難聴と言う。
□日本耳鼻咽喉科学会学校保健委員会での定義を示す(表)。
□小児,特に小学校2~3年生の女児に多く,学校の友人関係や教師との人間関係,家庭内の親子・兄弟関係等が推定される例が多い。年長児になるにつれ頻度は減少するが,中,高校生にもみられる。いずれにしても純音聴力検査の異常所見があり,他覚的聴力検査で異常がないことを証明することが診断のポイントである。
□難聴を訴えて耳鼻咽喉科を受診する例は2割程度とされ,診療現場では学校検診の聴覚検査で異常を指摘されて受診する例が多い。耳鳴,耳痛,めまい,耳閉感,聴覚過敏などの耳症状のほか,視野狭窄,腹痛,食欲不振,失調歩行など多彩な身体症状を伴うこともある。
□両側性難聴の場合が多いが,難聴については発症時期が不明確な例が多い。片側性が1~2割程度存在するとされ,急性発症例では突発性難聴やムンプス聾と間違われるものや頭部打撲や音響曝露など動機となるイベントが先行する例もある。
□純音聴力検査では感音難聴を示すことが多いが,少数ながら伝音難聴や混合難聴を示す例もある。難聴の程度は軽度から高度,聾まで様々であるが,検査結果が不安定で,経過中に変化することも本症の特徴である。また,聴力レベルの割には患者への問いかけには支障なく答えるなど,診察時に純音聴力検査所見との乖離を見抜くことが本症診断の第一歩となる。
□経験のある検査技師であれば,純音聴力検査の段階で本症を疑い,刺激音による検査閾値の差が検討される。断続音より持続音の閾値が低いことが心因性難聴の特徴とされているからである。
□他覚的聴力検査として最も簡便なのは歪成分耳音響放射(distortion product otoacoustic emission:DPOAE)検査であるが,純音聴力閾値が40dB以下の軽度難聴の場合は正常型を示すので限界がある。耳小骨筋反射も有用だが,感音難聴では中等度難聴でも陽性に出ることがあるので注意を要する。最終的には聴性脳幹反応(ABR)でⅤ波の検出閾値から推測できる聴力レベルと純音聴力検査結果との間に乖離を見つけることが診断の決め手となる。
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