□出生後,胎盤循環の喪失や酸化ストレスに対する適応反応により体内でのビリルビンが増加する。生理的黄疸は多少なり生ずるが,過剰に蓄積したビリルビンは神経毒性〔核黄疸(kernicterus)〕を引き起こす。
□核黄疸は,以前はわが国の脳性麻痺の3大原因の1つであったが,光療法(光線療法),交換輸血などの治療法の確立により激減した。しかし,光療法が確立された現在のわが国でも,生後72時間以内のビリルビン上昇(早発黄疸)による脳性麻痺の事例はみられる。また,諸外国でも核黄疸の事例はある一定の頻度でみられる。
□核黄疸につながるような高ビリルビン血症だけでなく,胆道閉鎖症をはじめとする胆汁うっ滞性の黄疸も見逃してはいけない。
□病的黄疸(下記①~⑤)の早期発見が重要である。①早発黄疸(生後72時間以内の黄疸),②血清総ビリルビン値の上昇速度が5mg/dL/24h以上,③生後72時間以後の血清ビリルビンが15mg/dL以上,④遷延性黄疸(生後2週間以上持続するもの),⑤血清直接ビリルビン値が2mg/dL以上。
□病的黄疸の原因として特に注意を要するのは,溶血性黄疸と胆道閉鎖症である。
□溶血性黄疸はABOやRhなどの血液型不適合,稀に遺伝性球状赤血球症などが原因になることもある。早発黄疸の際には溶血性黄疸を必ず鑑別に挙げる。ミノルタ黄疸計の値や血清総ビリルビン値の基準値以上の上昇がみられた場合には,直接Coombs試験および間接Coombs試験も行い,溶血性黄疸の早期発見に努める。
□2週間以上続く遷延性黄疸の際には胆道閉鎖症を鑑別に挙げる。唯一の根治的外科手術とされる葛西手術の適応は生後6週間までとされているので,特に見逃してはならない。
□新生児黄疸(jaundice of newborn/neonatal jaundice)は,周産期の医療に携わるものであれば誰もが熟慮すべき問題である。
□眼球結膜の黄染を認める。
□皮膚症状:可視的黄疸は,顔面から始まり胸部,腰部,四肢末端へと順に広がっていく1)。生理的には生後2~3日後に出現し4~6日に最大となり,7日以降に下肢から頭部に向かって消退する。生後24時間以内に可視的黄疸が確認される場合は,早発黄疸のリスクがあり,注意が必要である。皮膚色は非抱合型(間接)ビリルビンの上昇であれば橙黄色,抱合型(直接)ビリルビンの上昇であれば緑褐色となる。
□抱合型(直接)ビリルビン上昇の場合,胆汁排泄障害のため灰色~白色便,暗褐色尿がみられることも多く,胆道閉鎖症をはじめとする胆汁うっ滞性黄疸を考慮する必要がある2)。
□わが国の母子健康手帳には,便の色を7色の見本で示す便カラーコードが綴じ込まれており,同疾患の早期発見がめざされている2)。
□神経症状:Praaghの症状分類が知られている。第1期(筋緊張低下,嗜眠傾向,吸啜反射の減弱)までは可逆性のことも多いが,第2期(筋緊張亢進,発熱,後弓反張)に至ると,進行して脳性麻痺になることが多い。
□新生児黄疸の診断手順については図13)に示した。
□わが国での治療開始(光療法・交換輸血)基準としては,村田・井村の基準(図2)や中村(神戸大学)の基準(表)が広く用いられている。これらの基準では,出生体重により4~5段階に分類されている。核黄疸促進因子と呼ばれる新生児仮死,呼吸窮迫,アシドーシス,低体温,低血糖および低血糖などの病態があれば,1段階低い基準で治療を開始する。また,溶血性貧血の場合にも基準を1段階下げる施設もある。
□経皮ビリルビン濃度測定(コニカミノルタ黄疸計JM-105など):非侵襲的方法で,多くの施設で用いられている。前胸部などで3回以上測定し,中央値をとるのが一般的である。12mg/dLまで血清ビリルビンと近似した値をとる4)。ただし,光療法中は信頼性がない5)。
□測定頻度は各施設により異なるが,生後72時間以内は1日3回以上測定する施設も少なくない。上記基準を参考に,基準値もしくは基準値よりも1~2mg/dL下のレベルに到達した際には,血清総ビリルビン値を測定・確認する。
□血清ビリルビン測定:血清総ビリルビン測定でも,上記基準への到達が確認されれば,光療法をはじめとした治療を開始する。
□母体の血液型と間接Coombs試験:早発黄疸の場合,ABO不適合やRh不適合(D,亜型)のチェックのために行う。
□児の血液型と直接Coombs試験:上記と同様に早発黄疸の場合,ABO不適合やRh不適合のチェックのために行う。
□血算:Hb低下,網状赤血球数増加は溶血を示唆する所見,Hb上昇は多血症を示唆する所見である。
□直接ビリルビン測定:直接ビリルビンが2mg/dL以上の場合は,胆道閉鎖症をはじめとする胆汁うっ滞性の黄疸を考慮する。
□アンバウンドビリルビン測定:血中では非抱合ビリルビンはアルブミンと結合して存在するが,このうちアルブミンと結合していない遊離ビリルビン(アンバウンドビリルビン)が血液脳関門を通過でき,実際の神経毒性を持つとされる。しかし,アンバウンドビリルビン測定器はすべての施設に導入されているわけではない。導入されている施設で治療,特に交換輸血が検討されるような場合は測定されるべきと考える。
□血清アルブミン測定:低アルブミン血症の場合,遊離アルブミンの増加につながり,核黄疸発症のリスクが増加するとされる。早発黄疸や早産児の黄疸の場合は,B/A比(総ビリルビン/アルブミン比)の評価も行うのが望ましい6)。
□交換輸血治療後の児に関しては,頭部MRI,ABRの実施を検討する。
□家族歴聴取も重要である。新生児黄疸の治療歴,母の血液型,遺伝性球状赤血球症・胆石症,ジルベール症候群,G6PD欠損症(わが国では少ないが,国外では頻度が上がる)などの項目について聴取する。
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