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自己免疫性肝疾患の現状と将来[内科懇話会]

No.4922 (2018年08月25日発行) P.48

滝川 一 (帝京大学医療技術学部長)

田中 篤 (帝京大学医学部内科学講座教授)

登録日: 2018-08-24

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  • 【司会】 滝川 一(帝京大学医療技術学部長)
    【演者】 田中 篤(帝京大学医学部内科学講座教授)

    自己免疫性肝炎(AIH)の診断には肝生検と組織検査が必須。治療では副腎皮質ステロイドが著効する

    原発性胆汁性胆管炎(PBC)の診断には抗ミトコンドリア抗体が有用。ウルソデオキシコール酸(UDCA)が効かない場合の治療薬として数種類の新薬の治験が行われている

    原発性硬化性胆管炎(PSC)は2017年に診断基準が確立したものの,いまだに確固たる治療法はなく,PBC以上に新しい治療薬の開発が待ち望まれている

    AIH,PBC,PSCはいずれにおいても,病態や治療法について患者に十分な説明がなされていない現状がある。一般および医師への正しい知識の周知が必要である

    肝臓・胆道に起こる3つの自己免疫性疾患─AIH,PBC,PSC

    肝臓・胆道に起こる自己免疫性疾患には,自己免疫性肝炎(autoimmune hepatitis:AIH),原発性胆汁性胆管炎(primary biliary cholangitis:PBC),原発性硬化性胆管炎(primary sclerosing cholangitis:PSC)があります。この3つの疾患は現在,いずれも厚生労働省の指定難病になっており,ある一定の条件を満たすと医療費助成の対象になります。厚生労働省の「難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究」班は1972年に設立された非常に歴史の長い研究班で,AIH,PBC,PSCを対象にしています。本日は,この研究班による臨床研究を中心にお話しします。

    まず簡単に3疾患の病態を説明しますと,AIHは,肝細胞が自己免疫反応によって障害される疾患で,徐々に慢性肝炎から肝硬変に進行します。一方,PBCとPSCは,いずれも胆管が障害される疾患で,胆管が狭窄したり閉塞したりする結果,胆汁うっ滞が起こります。進行すると,胆汁性の肝硬変を起こし,肝不全に進行します。ただ,PBCは肝内の小型胆管が障害されますが,PSCは大型胆管が障害されるという違いがあります。

    自己免疫性肝炎(AIH)

    (1)診断

    AIHは慢性肝炎で,症状がほとんどなく,自覚症状もないまま検査値の異常で診断されることが多いです。ただ,中には少し症状の強い急性肝炎を発症して見つかる場合もあります。この場合,全身倦怠感や黄疸が出ることがあります。

    血液検査ではトランスアミナーゼの値が上昇するほか,自己免疫性であるため抗核抗体陽性になったり,血清IgG値が上昇したりすることがあります。そのため,診断にあたっては肝生検による組織検査が必須です。

    AIHは,B型慢性肝炎やC型慢性肝炎とは異なり確固たるバイオマーカーがないため,前述の私たちの研究班で診断基準を作成しています。診断基準には,大まかに言って表1に示した5項目があります。

    まず,肝炎ですのでASTとALTが上昇します。ただ,他の原因による肝障害の否定が大前提で,非アルコール性脂肪性肝炎(non-alcoholic steatohepatitis:NASH)や脂肪肝との鑑別が難しいことがあります。そのため,抗核抗体あるいは抗平滑筋抗体などの自己抗体を検出し,IgGが高値であることの確認が診断の柱になります。しかし,これでもなかなか診断が難しいため,入院して頂いて,組織学的にインターフェイス肝炎(interface hepatitis)や形質細胞浸潤の所見をとらえて診断します。したがって,診断には肝生検が必須なのです。

    AIHの典型例では,門脈域の炎症細胞浸潤に加えて,interface hepatitisや門脈域と肝実質間のリンパ球浸潤が著明にみられます。これらが確認できれば,AIHと診断できます。

    (2)治療

    AIHは,治療が行われない場合,あるいは治療反応が悪い場合には,肝硬変へ進行してしまうことがあります。AIHには副腎皮質ステロイドが著効します(表2)。副腎皮質ステロイドの使用量は,通常約0.6mg/kg/日であるため,30~40mgくらいのプレドニゾロン(プレドニン®)で治療すると,トランスアミナーゼの値が低下することが多いです。その後,肝機能検査値の推移を見ながらゆっくりと減量します。

    ただ,完全にプレドニゾロンを中止してしまうと再燃することが多いので,5~10mgの少量のステロイドを維持量として長期間投与するのが一般的です。アザチオプリンを併用することもあります。アザチオプリンは2018年6月現在保険適用となる見込みでしたが,2018年7月,AIHに対して保険適用となりました。プレドニゾロンの継続投与は身体的な負担がかかりますが,きちんと治療して効果がみられれば,生命予後は良好です。

    ただ,経過中に肝機能検査値の悪化,つまりプレドニゾロンの減量中にALTが100IU/L以上に上昇することが2回以上あると,肝硬変に進展する率が高い,あるいは肝細胞癌ができやすいというデータがあります。そのため,極力再燃を起こさないようにプレドニゾロンをゆっくり減量して,維持量で長期間経過観察することが重要です。

    (3)急性肝炎として発症するケース

    AIHは慢性肝炎ですが,中には非常に激しい肝炎を起こす場合があることが最近問題になっています。慢性肝炎が急激に悪化する「重症例」,あるいは急激に急性肝炎として発症する「急性発症例」などがあります。AIHがこういう形で発症すると診断は困難です。

    急性肝炎の発症例では,AIHの診断基準の中にある,自己抗体や血清IgG値の上昇といった所見がしばしば欠如していることが知られています。文献によって違いますが,急性肝炎を発症したものの抗核抗体が陰性である人は4~30%程度います。IgGが正常である人も40~70%程度います。また,急性肝炎を起こしたものの,抗核抗体が陰性で血清IgG値も正常なので,AIHと診断できない,わからない人がときどきいます。こういう場合,診断ができず治療も遅れるため,現在でも重症化して劇症肝炎を起こして死亡する人がいます。

    そこで肝生検が頼りになるわけですが,典型例のAIHとは少し異なり,中心静脈の周囲の幹細胞が壊死している組織像が比較的高頻度にみられることが知られています。そのため,原因不明の急性肝炎を診たときには,可能な限り肝生検を行い,上記の所見があればAIHを疑ってステロイドを投与する,あるいは重症な場合には速やかに対応が可能な施設へ転送するということを私たちの研究班ではお勧めしています。

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