株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

A型肝炎[私の治療]

No.5250 (2024年12月07日発行) P.31

四柳 宏 (東京大学医科学研究所先端医療研究センター感染症分野教授)

登録日: 2024-12-05

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
    • 1
    • 2
  • next
  • A型肝炎は,A型肝炎ウイルス(hepatitis A Virus:HAV)が肝臓に感染して起こる急性肝炎で,発熱,食欲不振などの全身症状が強いのが特徴である。通常,一過性の経過をたどるが,時にALTの再上昇,黄疸の遷延などをみる場合がある。急性肝不全(劇症肝炎)を合併するのは1%程度とされている。

    ▶診断のポイント

    急性肝炎の症状としては食欲低下,全身倦怠感,尿の濃染(黄疸)が共通であるが,A型肝炎の場合は発熱の頻度が他の急性肝炎に比べて高いのが特徴である。

    感染経路も診断の手がかりになる。欧米では冷凍の野菜や果物によるアウトブレイクが報告されているが,日本ではカキを中心とした二枚貝や魚介類を加熱不十分なまま食べたことによるものが多い。2018~19年にかけては男性間性交渉による糞口感染も話題となった1)。したがってA型肝炎と診断した場合,パートナーに関する情報を聴取する必要がある。

    A型肝炎の診断は血清IgM-HA抗体の検出により行うが,急性肝炎の発症早期ではIgM-HA抗体陰性の場合がある。また,低力価のIgM-HA抗体は,IgMが上昇する他の疾患でも認められることがある。IgM-HA抗体が陰性~低力価陽性であり,臨床的にA型肝炎が疑われる例では,IgM-HA抗体の再検も考慮する。

    A型肝炎では末梢血に異型リンパ球をしばしば認め,また,上述のように発熱を認める。このためEBウイルスによる伝染性単核球症,サイトメガロウイルスによる肝炎,HIV感染症などが鑑別疾患の対象になる。A型肝炎では咽頭痛,リンパ節腫脹は通常認めないことが鑑別の一助となる。確定診断のためには,これらのウイルス抗原・抗体・遺伝子検査などが必要になる。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    A型肝炎は一過性感染症で持続感染への移行はないため,重症肝炎の合併がない場合の治療は対症療法が中心である。重症例や遷延化例では抗ウイルス薬の投与が予後の改善につながる可能性があるが,急性ウイルス感染症でもあり,臨床でのエビデンスは乏しい。したがって,治療は通常の急性肝炎と同じように行う。

    急性肝炎で肝機能障害が著しい場合,肝臓における蛋白質,脂質代謝は低下している。オルニチン回路などのアミノ酸代謝経路が障害されている場合,蛋白質の過剰な負荷は肝性脳症につながる可能性がある。そのため,急性肝炎の極期には糖質の補給が中心となる。食欲が低下している場合にはブドウ糖の点滴を行う。

    残り697文字あります

    会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する

    • 1
    • 2
  • next
  • 関連記事・論文

    関連書籍

    関連求人情報

    関連物件情報

    もっと見る

    page top