膵囊胞とは,膵臓あるいはその周囲に囊胞を形成するすべての疾患の総称であり,あくまで形態学的特徴に基づいた名称である。膵囊胞は,腫瘍性囊胞と非腫瘍性囊胞に大別される。膵囊胞を認めた患者に対しては,その大きさにかかわらず腫瘍性囊胞の鑑別のために画像による精密検査を行う必要がある。
腫瘍性囊胞としては,膵管内乳頭粘液性腫瘍(intraductal papillary mucinous neoplasm:IPMN),粘液性囊胞腫瘍(mucinous cystic neoplasm:MCN),漿液性囊胞腫瘍(serous cystic neoplasm:SCN)が代表的なものとして挙げられる。また,充実性偽乳頭状腫瘍(solid-pseudopapillary neoplasm:SPN)や神経内分泌腫瘍(neuroendocrine neoplasm:NEN)などの充実性腫瘍が出血壊死などをきたして内部が囊胞変成を起こすものがある。
非腫瘍性囊胞としては,先天的に発生する単純性囊胞,膵炎に伴って発生する仮性囊胞,急性膵炎による膵実質や周囲組織の壊死部分が囊胞様構造をとる被包化壊死(walled-off necrosis:WON),などがある。その他の稀な非腫瘍性囊胞としては,類上皮囊胞,類皮囊胞,リンパ上皮囊胞がある。
内部に隔壁や充実成分を認める場合は腫瘍性囊胞を疑う。その囊胞形態から以下のような推定が可能である。
IPMN:ブドウ房状を呈し,外方に凸の多房性囊胞を認める。
MCN:壁が厚く球形で,内部に隔壁や囊胞構造を持つ。
SCN:典型的なものは多数の小囊胞集簇といくつかの大囊胞が混在する。
仮性囊胞:内部に壊死組織を含まないため,各種画像検査では比較的均一な囊胞内部構造(多くは単房性)を呈する。慢性膵炎では膵実質に膵石を認めることも多い。なお,急性膵炎後の仮性囊胞は稀とされる。
WON:膵外に広範囲に広がるいびつな形であり,内部に壊死物質を認める。
単純性囊胞:先天的に発生したと考えられる囊胞であり,多くは単房性で10mm以下のことが多い。
なお,微小な膵癌が分枝膵管を圧排して発生する囊胞(貯留囊胞)があることも知っておかねばならない。
膵囊胞が発見された患者には,大きさにかかわらず腫瘍性囊胞の鑑別のために詳細な画像検査を行う。検査としては,腹部超音波(US),MRI(MRCPも含む),超音波内視鏡(EUS),造影CTを行う。特にEUSは膵囊胞の鑑別には欠かせない検査であり,筆者は,膵囊胞患者に対しては,まずはEUSとMRIをセットで行って(MRIが禁忌の場合は造影CT)診断を詰め,治療方針を考える。また,近年ではEUSガイド下穿刺吸引生検(EUS-FNA)が普及しているが,囊胞性病変に対しては,穿刺後の播種を懸念して基本的には施行しない。しかし,他の方法で診断がきわめて困難で,EUS-FNAが治療方針決定に大きくつながると考えられる際には実施を検討する。
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