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双極性うつ病の抗うつ薬投与時の躁転と自然経過としての躁病エピソードをどう区別するか?

No.4936 (2018年12月01日発行) P.61

寺尾 岳 (大分大学医学部精神神経医学講座教授)

登録日: 2018-12-01

最終更新日: 2018-11-27

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双極性感情障害の治療中に,躁転が起きることを稀ならず経験します。原因は抗うつ薬と思われますが,どのタイプの抗うつ薬に多いのか,ご教示下さい。双極性感情障害の経過中に躁状態がみられることもあります。抗うつ薬による副作用との鑑別点があれば併せてお教え下さい。

(新潟県 T)


【回答】

【経過中の躁状態と抗うつ薬の副作用による躁転との鑑別は不可能】

まず申し上げたいことは,双極性感情障害のうつ病エピソード(双極性うつ病)に対して抗うつ薬を投与すると,賦活症候群や躁転が生じることがあるために,原則として抗うつ薬の単剤投与は推奨されません。それでは,抗うつ薬を気分安定薬もしくは非定型抗精神病薬に追加すればよいのでしょうか?

プラセボをそれらに追加した場合と比較して,効果と躁転率を調べた研究を集めて解析したメタ解析があります。その結果は,気分安定薬もしくは非定型抗精神病薬に対する抗うつ薬の追加は,プラセボ追加と比較して有意差はありましたが,たいした効果はなく,反応や寛解に至るほどではありませんでした。その上,併用したまま1年余り経過観察したところ,抗うつ薬追加のほうがプラセボ追加よりも有意に躁転率が高くなったため,気分安定薬もしくは非定型抗精神病薬に対する抗うつ薬の追加にはあまり期待できず,追加するとしても短期間にとどめるべきという結論でした1)

(1)躁転はどのタイプの抗うつ薬に多いか?

以上を前提とした上で,躁転はどのタイプの抗うつ薬に多いのかというご質問ですが,プラセボを比較対照にしたときに,イミプラミンの躁転率は1.85倍(95%信頼区間;1.22~2.79),セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(serotonin- noradrenaline reuptake inhibitor:SNRI)の躁転率は1.74倍(95%信頼区間;1.06~2.86)と有意に高いのですが,選択的セロトニン再取り込み阻害薬(selective serotonin reuptake inhibitor:SSRI)の躁転率は1.25倍(95%信頼区間;0.86~1.81)とプラセボと有意差はありませんでした2)。したがって,三環系抗うつ薬やSNRIに躁転が多いと考えられます。

(2)双極性感情障害の経過中の躁状態と抗うつ薬による副作用の鑑別

双極性うつ病に抗うつ薬を投与した場合の躁転と,自然経過としての躁病エピソードの鑑別ですが,結論から申し上げますと鑑別は不可能です。たとえば,双極性障害と診断がついていない(大)うつ病の患者に抗うつ薬を投与して躁転したときに,以前のDSM-Ⅳ-TRでは薬物誘発性の気分障害として,自然経過としての躁病エピソードとは区別していました。つまり,(大)うつ病であることに変わりはなかったわけです。

ところが,そもそも抗うつ薬で躁転するようなうつ病は実は双極性障害であるという考えが昔からあり,DSM-5ではこの考え方が一部採用され,抗うつ薬を投与して躁転した場合には薬物誘発性の気分障害とはせずに,躁病エピソードとしてとらえ,双極性障害に診断を変更することになりました。

ただし,DSM-5が抗うつ薬の副作用との鑑別をまったく考えていないわけではなく,「躁病エピソードに完全に合致したものであれば,抗うつ治療(たとえば薬物療法や電気痙攣療法)の期間中に生じたとしても,その治療の生理学的作用を超えて十分な症状が持続するのであれば,それは双極Ⅰ型障害の診断となる」とか「軽躁病エピソードに完全に合致したものであれば,抗うつ治療(たとえば薬物療法や電気痙攣療法)の期間中に生じたとしても,その治療の生理学的作用を超えて十分な症状が持続するのであれば,軽躁病エピソードと診断する十分な根拠となる。しかしながら,1つか2つの兆候(抗うつ治療に続く,増強した怒りっぽさ,いらいら,焦燥感)は軽躁病エピソードと診断する十分な根拠とは扱わず,双極性の素因を必ずしも示すものではないことには注意を要する」というただし書きがあります。

しかし,実際の臨床で何をもって「抗うつ薬の生理学的作用」とするのかは明らかではありません。それぞれの患者で薬物動態も薬力学も異なりますから,単純に半減期を指標とするわけにもいきません。したがって,鑑別には使えません3)。結局のところ,あまり難しく考えずに,抗うつ薬投与中に躁転した場合には,その患者がうつ病の診断を受けていれば双極性障害に診断を変更して気分安定薬を投与し,双極性障害と診断を受けていれば抗うつ薬の使用は控えるということでよいと思います。

【文献】

1) McGirr A, et al:Lancet Psychiatry. 2016;3(12): 1138-46.

2) Allain N, et al:Acta Psychiatr Scand. 2017;135 (2):106-16.

3) Terao T, et al:Psychopharmacology(Berl). 2014; 231(1):315.

【回答者】

寺尾 岳 大分大学医学部精神神経医学講座教授

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