高齢者のフレイルへの対策は近年重要な課題として各方面で取り上げられている。原則として薬物療法は行わず,「栄養」「運動」「社会参加」が対策の3本柱として推奨されている。しかし,背景に気虚や血虚が存在する場合が多く,体が弱っているときに体力などを回復させる「補剤」を中心に漢方薬を使用するケースも多い。
フレイルに対する漢方薬は,補中益気湯を基本として,貧血,皮膚の乾燥,手足の冷えなどの血虚があれば人参養栄湯や十全大補湯,ガットフレイルと呼ばれる胃腸の虚弱がみられる場合は六君子湯や大建中湯,下肢の冷え,痛み,頻尿などの腎虚がみられれば八味地黄丸や牛車腎気丸などが選択される。
しかし,高齢のフレイルに不安焦燥感が併存している場合,「そわそわ」した言動よりも倦怠感が前面に出てしまい,気滞の状態であっても気虚や血虚と判断されるケースがある。
柴胡桂枝乾姜湯は東日本大震災後のPTSD様症状への効果で取り上げられ1),虚証に気滞,気虚の症状がある場合に使用される。そわそわした言動があり「身の置き所がない」状態になっていることが多く,診断はつきやすいが,背景に身体的フレイルがある場合は注意が必要となる。
本症例は倦怠感,意欲低下が主訴で,デイサービスなどの関わりが乏しく自宅を中心に生活されているため,身体的・精神的・社会的フレイルと判断され補剤が処方されていた。しかし,診察室内でのそわそわした行動や,いくつもの病院に同じ主訴で通われており,精神的フレイルの要素は少ないと考えられる。「虚証+気滞」と考え柴胡桂枝乾姜湯を使用し奏効した。
フレイルの漢方処方として補剤を第一選択にすることは多いと思われるが,効果がスッキリと出ない場合は気滞の要素がないかを改めて見直してみることをおすすめしたい。