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ストップ!ザ・雑魚寝[炉辺閑話]

No.4941 (2019年01月05日発行) P.70

榛沢和彦 (新潟大学大学院先進血管病・塞栓症治療・予防講座特任教授)

登録日: 2019-01-05

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今や日本は地震・火山の活動期に入った。これは、約1000年前の状況と酷似している。869年の貞観地震は東日本大震災と同程度以上の津波地震であったことが明らかになっている。そして、その地震前後の連鎖は東日本大震災から今日までの地震発生場所と似ている。貞観地震の10年後に関東で大地震、20年後に南海地方で大津波地震が起きており、いつ大地震や大津波が起きてもおかしくない状況にある。

一方、災害の多い日本の避難所運営は欧米より遅れている。特に避難所となる体育館などの床に直接シートや毛布を敷いて多数の人で寝る、いわゆる雑魚寝を行っている先進国は日本だけであろう。体育館などでは、靴を脱いだとしても多数の人が行き交う床は清潔とは言えない。いわば、避難所で雑魚寝するということは、玄関にシートを敷いて寝ることと同じである。

床に雑魚寝することで床からの冷気が背中に伝わる、歩く人の振動が床から伝わる・触られるなどして安眠できない。また、雑魚寝ではつかまる場所がないため、足腰が悪い人は立ち上がれない。さらに、床の埃を吸い込んでしまい肺炎の危険性もある。こうしたことを解決するのが簡易ベッドであり、冷気や振動が伝わらず、立ち上がりもラクである。厳冬期ではベッドを使うと雑魚寝より体感温度は10℃違うことがわかっている。

1940年のロンドン地下鉄避難所において日本と同じ雑魚寝が半年続いた結果、肺塞栓症と呼吸器疾患による死亡が増加した。これを重く見たイギリス政府は、地下鉄避難所に避難していた数よりも多い20万台の簡易ベッドを設置し、その後は肺塞栓症や呼吸器疾患は減少した。

では、日本はどうであろうか。内閣府の避難所運営ガイドラインに簡易ベッドの使用が明記されているが、未だに雑魚寝の避難所が後を絶たない。避難所で簡易ベッドが必要と言うと、「なぜ?」と言われることが少なくない。しかし、玄関でシートを敷いて安眠できますか?そこで食事はおいしく食べられますか?避難所環境の改善は、まず簡易ベッドの使用が第一と考えている。ストップ!ザ・雑魚寝。

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