【anorectal lineが粘膜剝離開始位置として適切である】
ヒルシュスプルング病(H病)の根治手術として,Swenson法,Soave法,Duhamel法が代表的な術式として世界で広く行われている。それらを応用,発展して,各施設で精通した術式が選択されている。しかしながら,術後排便機能に関して問題を抱えていないのは全体の75%程度とも報告されており,さらなる術式の改良とともに病態の解明が必要である。
当科では,腹腔鏡補助下transanal pull-through法を行っており,良好な術後排便機能を得ている。その一因として,世界に先駆けて経肛門アプローチの粘膜剝離開始位置をanorectal line(ARL)と定めたことが挙げられる1)。ARLが粘膜剝離開始位置として適切であることを裏づける基礎研究として,H病モデルマウスを用いてARLが肛門管上皮と腸管粘膜の境界線であること,ARLより肛門側は肛門感覚神経が正常マウスと同等に存在していることを示し,同部位が手術で損傷してはならない領域であることが示唆された。
一方,最近の当科の研究で,H病モデルマウスにおいて,内肛門括約筋全体の神経系においても腸管神経と同様,異常であることが示された。この結果は,内肛門括約筋の領域を温存する当科の術式により,術後良好な排便機能が得られているという結果とは結びつかないものであった。
H病の病態や肛門の解剖はいまだ未解明な部分が多く,今後さらなる研究が必要と考える。
【文献】
1) Yamataka A, et al:J Pediatr Surg. 2009;44(1): 266-9.
【解説】
武田昌寛 順天堂大学小児外科・小児泌尿生殖器外科