小児では開存した腹膜鞘状突起(patent processus vaginalis:PPV)に腹腔内臓器が入り込むことにより生じる外鼠径ヘルニアがほとんどである。腸管,大網,卵巣(女児)等の脱出のため,鼠径部から陰囊(男児)や恥骨脇(女児)にかけて膨隆がみられる。
症状は新生児期から思春期のいずれの時期にも認められ,再現性があり,膨隆部を押すか仰臥位になることで膨隆が消失することが特徴である。
脱出した臓器が容易に還納できないものを嵌頓ヘルニアと言い,不機嫌や腹痛,嘔吐などの症状を呈する。血流障害を伴うと腸管壊死や腹膜炎を引き起こすことがあるので,注意が必要である。また,稀であるが小児でも内鼠径ヘルニアや大腿ヘルニアを生じることもある。
鼠径ヘルニアは臓器の脱出をもって診断する。肥厚したPPVが擦れる感触(silk sign)により診断する方法もあるが,指示に従える年齢であれば診察室で息ませたりジャンプをさせたりして,乳児であれば下腹部を用手圧迫することで脱出を促して診断をつけるようにする。最近ではスマートフォンの普及により,脱出時の写真を撮影して持参してもらうことで診断の補助とすることも可能である。
脱出臓器や対側の評価には,超音波検査が有用なことがある。鑑別診断には精索または陰囊水腫(男児)やヌック管水腫(女児),鼠径部リンパ節炎やリンパ管腫などが挙げられる。
生後6カ月頃までは自然閉鎖する可能性があるとされ,初診時に生後6カ月未満である場合は,嵌頓について説明を十分に行った上で経過観察としている。生後6カ月を過ぎても症状が軽快しない場合,または,初診時に生後6カ月を超えている場合は手術を推奨する。
乳児期後半は嵌頓が起こりやすく,経過観察を行う際は数カ月ごとの通院を指示している。嵌頓の既往がある場合は早期手術を検討するが,特に男児では嵌頓により精巣動静脈が障害されて精巣萎縮の原因となりうるため,より早期治療を推奨している。
手術法には鼠径部切開法(Potts法)と腹腔鏡手術(laparoscopic percutaneous extraperitoneal closure:LPEC)がある。Potts法は安全性が高く,術後疼痛が少ないという長所がある一方で,対側の評価ができないことが短所である。LPECでは対側評価と治療を同時に行うことができるが,気腹操作や前処置が必要であることが短所と考えられる。筆者は対側PPVが疑われる症例や,患者・家族による希望がある場合にLPECを行うようにしている。男児には,原則として症状を認める側のみを治療する方針としており,Potts法での手術を推奨している。
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