食道閉鎖症は,食道の連続性が途切れている先天性の疾患で,多くは上部食道が盲端に終わり下部食道が気管に瘻孔としてつながっている病態で,Gross分類のC型と呼ばれている。日本小児外科学会調べによる2018年の新生児外科統計1)では,年間212例の症例があり,そのうち約90%がC型であった。ついで上部・下部食道がともに盲端に終わるA型が8%を占めていた。治療成績はしだいに向上してきており,同統計では死亡率は7.5%であった。重篤な先天性心疾患や染色体異常を合併することがあり,その場合にはいまだに予後不良である。
出生前診断例が増加しており約45%を占めるようになった。胎児超音波検査や胎児MRI検査にて,羊水過多,胃泡が確認できない,上部食道が拡張して盲端に終わる,などの所見を呈する。生後には,口腔内に泡沫状の唾液がたまる所見で疑われ,胃管が上部食道内で反転してしまうコイルアップサインが特徴的である。消化管内にガスが出現すればGross C型が,ガスがなければGross A型が疑われる。同時に,合併する心疾患,染色体異常,直腸肛門奇形,腎奇形などのスクリーニングを行うことが,治療方針を決める上で重要である。
重篤な心疾患,染色体異常などの合併がなく,体重が1500g以上あれば一期的根治術を施行する。Gross C型の場合には,麻酔下に気管支鏡検査で気管食道瘻を確認する。手術は左側臥位で開胸にて施行する。奇静脈を切離し,迷走神経損傷に注意しながら,まず下部食道を気管から離断する。ついで上部食道を剝離して直接吻合を行う。吻合途中にステントチューブを経鼻的に胃内まで挿入する。新生児期に一期的根治術が困難な病態下では,胃瘻造設と食道バンディングを施行して経腸栄養ができる形にして根治術に備える。食道延長術は,上部食道をブジーで押し伸ばすHoward法を施行する。術後は頸部固定と鎮静により食道吻合の安静を保ち,1週間ほどで縫合不全がないことを確認する。
手術に関しては,胸膜外アプローチで施行する方法や,腋窩切開で手術する方法などのオプションがある。また,最近では内視鏡手術にて根治術を施行する施設も増加している。食道延長術も,Foker法やKimura法などのオプションがあり,また再建術も食道食道吻合が難しい場合には,全胃つり上げ法,結腸間置,小腸間置などの方法がある。これらの多くのオプションの組み合わせが施設によって選択されるようになっている。
術前に誤嚥性肺炎を合併している場合にはその治療を優先するために,とりあえず胃瘻・食道バンディングを施行する。先天性心疾患合併例では,循環器科との相談により治療方針を決める必要がある。重篤な染色体異常を合併している症例に対しては,施設の方針によって根治術を施行する場合と姑息的な治療にする場合がある。喉頭閉鎖,十二指腸閉鎖などの合併例も稀に存在し,その場合には関連各科との連携で治療方針を決めることが重要である。術後は,縫合不全を合併した場合には保存的治療を優先するが,気管食道瘻の再開通や,吻合部狭窄をきたすこともあり,中長期的に慎重なフォローが必要である。また,気管軟化症を合併していることもある。この場合には長期呼吸管理が必要となることもあり,気道確保のために大動脈つり上げなどを行うことがある。
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