国内での感染例や、潜伏期間であっても感染させるという報道を目にして、医療従事者と比較して感染リスクが低いはずの一般の職場からの問い合わせが多くなっています。今回は、産業医のために一般の職場における感染リスクと対策についてご紹介します。これを基に、職場でどう対応するかは衛生委員会で審議いただくのがよろしいかと思います。
職場における感染リスクは、感染者の有無によって決まります。潜伏期間の人でも他の人に感染させるという情報がありますが、現在の中国を含めた感染の拡大において、こうした人が全体の感染拡大にどこまで影響したかは不明です。また、これを考え始めると対策ができなくなるのでいったん横に置いておきましょう。
職場の感染リスクは次の2つの段階に分かれます。
1. 発熱や咳などの症状がある人の入室を制限できるか
2. 従業員や訪問者との対人距離を1〜2m、保てるか
それにより表のように感染リスクを4段階に分けることができます。クラスⅠからクラスⅣの順にリスクが上がります。その上にあるのがクラスⅤで、これはあまり想定されていませんが、発熱した人の近くでお世話する場面です。
職場において発熱や咳があったら休めるように、または発熱はないが少しだけ咳が出るならマスクをきちんと着けて咳エチケットを行うと職場での感染リスクはほとんどありません。事務職場ですとクラスⅡでしょうか。こちらもほとんど感染リスクがありません。客先でも、相手が元気そうでしたら感染リスクはないと判断できる場面がほとんどです。
不特定多数を相手にする職場であればクラスⅢやⅣになるでしょう。しかしながら、発熱や咳をしている方とどのくらい接することがあるでしょうか?一般的には、発熱があると、外にはあまり出てきません。「そうした人がいつ目の前に来るかわからないから」という理由でマスクを仕事中ずっと着けてもいいのですが、予防効果は限定的です。職員がどうしてもマスクを着けたい場合には着用を許している企業が多いようです。バスの運転手さんやガイドさんはクラスⅣに該当します。また満員電車も同様です。
クラスⅤは、もし万が一、発熱者に対応するようなことがあるとしたら、その時はお互いにマスクを着けて対応し、帰宅を促したりすることになるでしょう。接触する時間も減らしましょう。
マスクを購入することが困難になってきています。また、今後もこの流行は規模の大小にかかわらず数カ月続くと予想しています。
衛生委員会では、職場でリスクの高いところを特定して、職員の心情や不安に寄り添ってバランスの良い対策を検討してください。なお、マスクの在庫も減っていますので、会社が職員にマスクを配布して着用させるとなると、マスクがなくなった時にまた不安になります。中長期的な視点も取り入れながら対策を考えてください。
(著者注:2020年1月30日の早朝の情報を基にしています)
和田耕冶(国際医療福祉大学医学部公衆衛生学教授)[新型コロナウイルス拡大に備えて]