No.4699 (2014年05月17日発行) P.72
仲野 徹 (大阪大学病理学教授)
登録日: 2016-09-08
最終更新日: 2017-04-05
『万能細胞』という言葉が大嫌いだ。いうまでもなく、ご存じiPS細胞やES細胞、そして、あるかないかわからないけどSTAP細胞もこれにあたる。
ほとんどの人は科学用語と思っているが、それは違う。万能細胞というのはマスコミ用語だ。まともな生命科学者は『万能細胞』などというばかげた言葉は使わない。『多能性幹細胞』と言う。
『万能』という言葉を辞書で引いてみれば、そのおかしさは明らかだ。広辞苑には「①すべての物事に効能のあること、②さまざまの物事にたくみなこと」とある。『万能細胞』というのは過大評価、あるいは、誤ったネーミングと言わざるをえない。
一方、『多能性』という言葉は、「いろいろな細胞に分化することができる」という細胞の性質を示すだけで、その効能や巧みさなどについては何も意味しない。
そんな細かいことを、と言われるかもしれない。しかし、『万能』という言葉は有用性や優秀さを示唆しているのであるから、誤った印象を植え付けるのに十分な効果がある。厳しくいえばミスリーディングだ。
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