22年前、東京女子医大救命救急センターを辞し、生まれ故郷の宮古島に帰って在宅医療を始めたばかりだった。過疎の農村地帯や小さな離島を中心に患者を訪ね歩いていた。
患者は85歳の男性、独身の息子と同居。高度認知症で失明しており、通院は困難で、転んだりぶつけたりして、傷が絶えないと往診依頼があった。最初は普通に擦過傷や挫創の処置をしていたが、しばしば傷が再発、膿瘍形成して難治性だった。しかも、不思議とあまり痛みを感じていないようだ。一旦上皮化しても、またすぐに傷がついて、そのうち広汎なびらんになったりする。経過をみていると、手足だけでなく顔面にも同じような変化が現れた。短縮している第2、3指は、当初は事故か何かで切断したものと思い込んでいたが、よく診るとちゃんと爪がある。その後、第1指に現れた難治性のびらんは膿瘍を形成し、先端から壊死して、少しずつ指が短縮していった。
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