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【識者の眼】「ACP(5):ACP形成の難しさ」杉浦敏之

No.5022 (2020年07月25日発行) P.57

杉浦敏之 (杉浦医院理事長)

登録日: 2020-07-09

最終更新日: 2020-07-09

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ACP普及に向けて世の中は動いているが、その中で関係諸氏からACPに対する誤解・曲解に対して警鐘が鳴らされていることも事実である。個人的にはACPに法的な意味合いを持たせようとすると、この問題が出やすいように思う。あくまでもACPは、私的な約束事で、残された親族が後悔しないようにする目的で使用されるもの、という捉え方をすることが重要ではないであろうか。そのためには、本コーナーで川越正平氏が主張したように(No.5017)、ACPは現在進行形で、医師だけではなく多職種で行うこと。できれば医療者側から正面切って尋ねるのではなく、患者や家族と接する時の会話からACPに関する情報を抽出して記録すること。そしてそれをもとに多職種で話し合って本人や家族の意向を類推し、また現場に戻った時に類推した意向通りなのか、また以前と意向に変化があるかどうか、いつもの会話の中で確認するというプロセスを通じて行うことが妥当ではないかと思われる。

開業医として繰り返し行う日常診療の中で、元気に通院してくる患者に対してもこのようなプロセスで「なんとなく」ACPを形成することがよいであろう。ただ、その会話自体が人生の機微に接するものなので、ある程度のスキルが必要である。個人的には、重篤な状態であっても、本人や家族からDNAR(do not attempt resuscitation)の意向を示されない限り、できるだけこちらからはDNARに関する直接的な質問はしないようにしている。今置かれている状況から想像力をフル回転させて、本人や家族に対してどのような言葉を発したらよいかを考えながら会話をする。医療者の言葉は「諸刃の剣」であることを忘れてはならない。そのためには日々患者から「学ぶ」姿勢が不可欠である。厚生労働省のガイドラインにも明記されているように、ACPはあくまでも「自発的」なプロセスであって、医療者側から強引に誘導するものではないのである。もちろん、ただ待っていてもACPは形成されない。世の中から求められているのは、ACP形成の契機を作ること、本人や家族からACPに関する相談を受けた時に真摯に向き合い、適切にアドバイスすることなのである。

しし座にあるNGC2903(銀河)〈筆者撮影〉。地球から約3400万光年離れたところに位置する

杉浦敏之(杉浦医院理事長)[人生の最終段階における医療⑥]

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