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【識者の眼】「貧困対策の制度を知ろう」西村真紀

No.5034 (2020年10月17日発行) P.60

西村真紀 (川崎セツルメント診療所所長)

登録日: 2020-10-06

最終更新日: 2020-10-06

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第10回は、健康の社会的決定要因(social determinants of health:SDH)の、特に貧困対策としての生活保護、無料低額診療についてお話しします。

コロナ禍で生活保護申請が増えていると報道されています。生活保護は憲法第25条の生存権を保障するための制度で、生活、住宅、教育、医療、介護、出産、生業、葬祭の扶助があり、医療と介護の自己負担がなくなります。生活保護の受給要件がギリギリの場合、治療が必要な状態であることを医師が福祉事務所に伝えることで受給がスムーズになることがあります。しかし生活保護を当事者に勧めるのはそう容易ではありません。ホームレスの方や貧困の方で「まだ大丈夫」「生保はいや」と言われる方も多数います。生活保護に対するバッシングやスティグマが存在しています。特に救急などで受診を断られることが実際にあります。「助けて」と言えず「大丈夫」と言ってしまう方々は、制度や具体策を知らないだけのことも多いです。もう一歩踏み込んで「大丈夫じゃないですよ」「こんな方法がありますよ」「生保は人生の終わりじゃないです。始まりです」と声をかけてください。

無料低額診療(無低診)事業は、生計困難な患者に無料または低額な料金で診療を行うもので、医療機関が届け出を行い、知事の許可を経て事業を実施できます。医療機関に対しては固定資産税や不動産所得税などの税制上の優遇措置があります。収入が生活保護基準の130%までが患者負担をゼロ、150%までは患者負担半額、適応期間はそれぞれ半年、1年、などの基準は医療機関ごとに決めることができます。適応期間の間にその他の社会資源につなぐことが必要とされており、ソーシャルワーカーの役割が重要です。とはいえ、安定した仕事に就いたり、健康保険料の滞納の処理がすぐにできる人はわずかで、無低診の更新が続く例も少なくありません。無低診はとりあえずの受診を保障する事業ですが、大切なのはその患者さんとつながり様々なサポートを継続していくことだと考えます。

今回は生活保護と無低診について紹介しましたが、他にも健康保険の負担金減免制度など様々な制度があります。私たち医療者は、制度に精通しておくことが望ましいですが、それは難しいかもしれません。そのため、私たちは患者さんの貧困に気づいたら、専門職であるソーシャルワーカーに相談し、確実に制度につなぐことが大事です。

西村真紀(川崎セツルメント診療所所長)[SDH⑩]貧困]生活保護]無料低額診療事業]

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