私は主に臨床検査技師養成の教育を行っているが、近年の医療のAI・OA・DX化により、その人材の存在価値が問われている。そのきっかけとなったのは、医療のAI化などによって、臨床検査技師の仕事が20年後には90%の確率で失われるとのオックスフォード大学での研究結果である。しかし、私は以下に示す理由により、臨床検査技師やその養成機関の存在価値が失われることはありえないと考えている。
第1に、検体検査を中心に既存の臨床検査がAI・OA化されても、それらの検査を厳密な精度で実施し、ミスやトラブルなく膨大な検査データを医師や患者などに届けるには、臨床検査技師の適切な管理、対応などが不可欠である。
第2に、医療・臨床検査の急速な発展に伴い、臨床検査技師が行う検査の範疇は拡大・多様化し続けている。特にAIやOAでは対応できない高度な技能を要する検査では、臨床検査技師が新たな資格を取得し遂行しているものもある。がん診断で重要な細胞診検査を行う細胞検査士、遺伝性疾患の発見やがん・生活習慣病・遺伝性疾患等の発症リスクを検査する認定臨床染色体遺伝子検査師、生殖補助医療において産婦人科医の指示の下で顕微授精や体外受精などを行う胚培養士、超音波検査を行う超音波検査士などが該当し、そのほとんどが臨床検査技師の事実上の独占業務である。
第3に、病院のタスクシフトやチーム医療の推進に伴い、「医療全般において柔軟に対応し、適切に行動する臨床検査技師」のニーズが高まり、臨床検査技師養成機関の教育内容もそれに準拠する形で大きく変化している。
第4に、臨床検査技師の活躍の場が病院の枠を超え、拡がっている。医療検査機器・試薬・医療システム・データ管理などに精通する臨床検査技師の強みを生かし、治験コーディネーター、アプリケーションスペシャリスト、医療関連企業での医療機器や医薬品、試薬の開発ならびに精度・品質管理で活躍する者、大学・公的機関・企業の研究職に就き活躍する者も数多く存在する。
以上より、臨床検査技師の存在価値はますます上昇しているように思える。それは臨床検査技師が「臨床検査を行う人材」から「臨床検査を司る高度医療人材」へと進化しているからである。また、臨床検査技師養成機関の教育目標も「臨床検査技術を習得する」から「臨床検査のすべてに精通し医療に貢献するとともに、医療の発展に臨床検査技師が何をなすべきかを考え、実践する」へと変化しつつある。そのような状況下で我々教育者は、学生たちに「臨床検査技師としての専門性を身につけ、それをどのような形で医療に寄与できるのかを考え、実践する」ためのモチベーションを誘導し続けることが重要である。それが成し遂げられることにより、学生たちが「臨床検査技師」としての誇り・自信と責任を持ちつつ、医療機関を中心に様々な場所で活躍し、健康と生活の質の向上に寄与する人材へと成長できると信じている。
岡本成史(大阪大学大学院医学系研究科生体病態情報科学講座教授)[臨床検査技師][存在価値][養成機関]