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高度408km─国際宇宙ステーション実験を振り返る[炉辺閑話]

No.5045 (2021年01月02日発行) P.65

志波直人 (久留米大学病院病院長・整形外科学教室教授)

登録日: 2021-01-03

最終更新日: 2020-12-24

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コロナ禍による外出自粛、巣ごもり生活で、活動性低下による筋骨格系廃用の問題がメディアではしばしば取り上げられます。廃用による変化は加齢より著しく、さらに宇宙飛行士では無重力により筋骨格系への力学的負荷(メカニカルストレス)が著しく減少するため、より顕著な廃用状態となることが知られています。

このような宇宙飛行士の廃用を予防するため、重力に代わるメカニカルストレスを身体に与えるというコンセプトで、動作の抵抗となる骨格筋を電気刺激収縮させ運動抵抗を生む装置を考案、開発しました。2002年からの日本宇宙フォーラム公募地上研究を経て、国際公募国際宇宙ステーション(ISS)利用研究テーマとして採択され、2014年、宇宙飛行士を被験者とした実験が実現しました。憧れのNASAやJAXAでの研究でしたが、当時は実験を実施することでいっぱいいっぱいでした。

多くの方たちのご協力により実験は無事終了し、翌2015年に科学雑誌“PLOS ONE”に結果を報告することができました。並行して、装置を市販化するとともに、教室員の留学を機にカンザス大学との同装置を用いた変形性膝関節症に対する共同研究を行い、その成果が米国随一のリハビリテーション医学会であるAmerican Academy of Physical Medicine & Rehabilitationの2019年best original researchに選出されました。米国での受賞はきわめて光栄なものですが、一方で、2017年にFDA(米国食品医薬品局)から骨格筋電気刺激(EMS)の腹筋などへの科学的根拠のない過剰な宣伝への警鐘と適正使用に関する声明が発表されました。われわれの受賞がこの声明後であることに大きな意義があると考えています。

ISS実験後5年を経過した2019年の11月23日夕方、久留米市上空をISSが飛来しました。ISSは輝きながら西の空から現れ、あっという間に頭上を越えて行きました。自分の目でISSを見るのはこの時が初めてで、その大きさや形から肉眼でもはっきりとわかるものでした。高度408kmのISS上での実験を振り返り、改めて心に刻んだ一瞬でした。

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