2020年は新型コロナウイルスCOVID-19に翻弄された1年だった。2月、クルーズ船ダイヤモンド・プリンセスの大規模クラスター発生が報じられた時、三菱重工長崎造船所で建設中であったダイヤモンド・プリンセスの大火災(2002年10月1日)を思い出した。夜の長崎港、水面に赤々と映る悲しくも美しい火の手は今でも目に焼き付いている。遅れて建造中であった姉妹船サファイア・プリンセスをダイヤモンド・プリンセスと改名し、建造を急ぎ2004年完成にこぎつけた。16年後のCOVID-19クラスター発生、ダイヤモンド・プリンセスという船名の不遇な運命を思った。
2020年4月20日、長崎港に修理のため停泊していたクルーズ船コスタ・アトランチカでCOVID-19感染者が発生し、長崎に緊張が走った。国の指示で乗組員623名全員に対してLAMP法(長崎大学熱帯医学研究所・安田二朗教授開発)によるCOVID-19検査を実施し149名の陽性が判明した。乗組員全員が外国人で平均年齢33.5歳と若かったことが幸いし、体調不良により救急搬送されたCOVID-19陽性患者は11名に留まり、本院には重症患者1名を含め7名が入院した。国のクラスター対策班、DMAT、県、大学医師により乗組員の綿密な健康観察と感染拡大防止策が行われ、数回の検査の後、5月28日船内の陽性者はゼロとなり、5月31日マニラに向けコスタ・アトランチカは出港した。6月15日、本院の重症患者も退院し帰国の途に就いた。この一部始終は、河野茂長崎大学学長監修の書「死者ゼロの真相 長崎クルーズ船新型コロナ災害との激闘」(長崎新聞社刊)にまとめられている。
鎖国時代、唯一世界に開かれていた長崎出島、長崎港に寄港した外国船の乗員からコレラやインフルエンザなどの感染症が長崎に上陸し、全国に広まった。今回、長崎港停泊中のクルーズ船からCOVID-19を迎え入れることになったが、一人の死亡者を出すこともなく、かつ長崎市民への感染を防げたことは感染制御学の進歩の賜物と言える