No.5056 (2021年03月20日発行) P.53
草場鉄周 (日本プライマリ・ケア連合学会理事長、医療法人北海道家庭医療学センター理事長)
登録日: 2021-02-22
最終更新日: 2021-02-22
いよいよ一部の医療従事者に対する新型コロナウイルスのワクチン先行接種がスタートした今、気になるのは一般国民がワクチンにどう向き合うかである。時事通信社の2月の世論調査では、「接種を希望する」は70.1%、「希望しない」17.5%、「分からない」12.4%で、「希望する」を男女別でみると、男性73.4%、女性66.3%という結果が報道された。予想よりも多くの方が接種を希望されていることに安堵した。
プライマリ・ケアの現場でも、しばしばかかりつけの患者から「先生、ところでワクチンはどうなのでしょうね?」との質問が増えてきた。この質問に対して、ワクチンがそもそもどのような仕組みで免疫を強化するかという科学的観点からの説明をするケース、あるいはメディアで流れる副反応のリスクについて確率の観点から説明をするケースなど、色々なパターンがあり得る。
医療者としては、もちろん不確実性はあるものの、現時点では安全性の観点からは自信を持って推奨できるワクチンであることは科学的には疑いない。ただ、患者一人一人には「ワクチン」に関するストーリーがあることを忘れてはいけない。例えば、親戚でワクチン接種後に体調を悪くして「絶対に打たない方が良い」と周囲に触れ回っている方がいるかもしれない。あるいは、1989〜93年のMMRワクチンによる無菌性髄膜炎の感染被害を親として不安な気持ちで記憶している方もいるだろう。もちろん、海外の有害事象を強調したメディア報道に感化されている方がいてもおかしくない。
大切なのはある症状を緩和したり、疾患を治癒する治療とは異なり、まだ未知の疾患を未知のワクチンで予防するという「二つの未知」を一般国民が受け入れるハードルは高いという事実を認識すること。そして、不安を当然のことと受け入れつつ、患者一人一人のストーリーを傾聴し、そのストーリーに関連する情報をプロとして誠実に伝える努力だろう。これは、ワクチンに代表される予防医療全般について必要な対話である。今回のコロナワクチンを予防医療学的対話の端緒とすることは、医療従事者、そして国民にとっても、大きなチャンスだと言える。
草場鉄周(日本プライマリ・ケア連合学会理事長、医療法人北海道家庭医療学センター理事長)[総合診療/家庭医療]