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【識者の眼】「歯科医院には何かある?」槻木恵一

No.5056 (2021年03月20日発行) P.56

槻木恵一 (神奈川歯科大学副学長)

登録日: 2021-02-25

最終更新日: 2021-02-25

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大阪府の吉村洋文知事は発信力が高い。タイトルにした「歯科医院には、何かある(中略)」は、2021年1月に投稿された吉村知事のTwitterでの発言で、マスメディアでも報道された。彼は、歯科医院で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のクラスターが発生していないことを取り上げ、そのメカニズムを分析することが必要であると述べている。この発言の裏には、歯科医院は感染しやすい場所と思っていたが、実際は違っており、その理由は何なのだろう、という疑問を呈したものと推察される。私は歯科医師であり、全く不思議ではないが、同様の発言は、感染症対策の専門家である国立国際医療研究センターの大曲貴夫医師も昨年6月に述べているようだ。当時の報道によると、ソフトバンクの新型コロナウイルス抗体検査の陽性率の速報値が歯科医師0.7%、歯科助手0.9%となり、医師や看護師より低い値であった結果に対して「驚くべきデータ、リスクが高いと予想していた専門家が多いと思う(中略)」との感想を述べたという。

本学歯学部附属病院(23床)でも職員312名に対して新型コロナウイルス抗体検査を行ったが、IgG陽性者は1名であり極めてまれであった。また、所属の歯科医師、医師に新型コロナウイルスに感染した者は2月19日現在いない。この様に、小規模の歯科医院だけでなく歯科病院レベルでも、患者と歯科医療従事者の間で感染が広がりクラスターとなった例はないのである。

歯科医院は感染しやすい場所という誤解が生まれた理由は、The New York TimesのThe workers who face the greatest coronavirus riskという記事(2020年3月15日配信)ではないかと言われている。この記事から、歯科医師は感染リスクが高い職業であり、あたかも歯科医院は危ないという印象で報道されてしまった。確かに歯科医療は、口を開けた人に極めて近接し、治療でエアロゾルも巻き起こす。それでも感染事例がないのは、感染対策をしているからである。すなわち、歯科医院に何かあるとすれば、高いレベルの感染予防対策ということになる。むしろ受診控えによる口腔環境の悪化の方が問題ではないだろうか。

日本歯科医師会の堀憲郎会長は、1月21日の定例会見で「講じてきた措置と効果の因果関係にどこまで迫れるか、日本歯科医学会とも連携して、議論したい」とコメントした。今後エビデンスの提示を期待したい。

槻木恵一(神奈川歯科大学副学長)[新型コロナウイルス感染症]

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