住血吸虫は体長1~2cmの血管内寄生吸虫で,ヒトの病原体としてはマンソン住血吸虫,日本住血吸虫,ビルハルツ住血吸虫など6種が知られている。血管内で産卵するため,虫卵が毛細血管を塞栓して全身の臓器で肉芽腫性炎症を起こす。日本国内では山梨県,福岡県などに流行地が存在したが,今日では流行は終息しており,今日国内で見つかるのはすべて輸入症例である。現在,患者の大半はアフリカに限定されるようになったが,欧州ではフランス国内でビルハルツ住血吸虫様の流行フォーカスが見つかり,ウシの住血吸虫とハイブリッドを形成したものではないかと推定されている。
住血吸虫の種類によって成虫が寄生する血管が異なり,マンソン住血吸虫や日本住血吸虫は腸間膜静脈,ビルハルツ住血吸虫は骨盤内静脈であり,症状も大きく異なる。ビルハルツ住血吸虫は尿路系症状だけでなく,女性の生殖器系への影響が大きいことも認識されている。ビルハルツ住血吸虫感染はヒトの膀胱癌発症の原因となることが明らかであるほか,日本住血吸虫感染が直腸癌の原因となることが疫学的に強く疑われている。
住血吸虫症は生活史に必要な淡水産巻貝の分布地に一致して流行する風土病であり,生活歴や行動歴の問診により診断の可能性を考える。ビルハルツ住血吸虫症で肉眼的血尿を呈するほかは特徴的な所見がない。確定診断は排出される虫卵を確認することによるが,腸間膜静脈寄生の場合は糞便,骨盤内静脈寄生では尿を用いて虫卵検査をする。
住血吸虫症の治療は駆虫と症状に応じた対症療法とで行う。
駆虫は特効薬プラジカンテルの経口服用でほぼ完全な駆虫効果が得られる。薬効機序として,住血吸虫細胞のイオンチャネル障害が考えられているが,確定していない。プラジカンテルは住血吸虫の成虫ステージを殺滅するが,幼虫段階では効果がほとんどみられないことが重要である。住血吸虫は幼虫が経皮感染して人体内で成虫に発育するまで約半年を要するため,感染時期がある程度推定可能な場合は,プラジカンテルへの感受性が確立する4カ月目以降まで待って服用するようにする。濃厚感染でない限り,住血吸虫が成虫になって産卵を開始するまで症状は現れず,確定診断もできない。特殊な事例であるが,流行地で感染した疑いがかなり濃いために,感染推定時期から4カ月後にプラジカンテルを服用するように指導されたケースがあった。また,血清検査では抗虫体抗原抗体が陽性だったが,抗虫卵抗体は陰性でプラジカンテルによる「計画治療」が成功したと思われるものがあった。虫卵産生前に駆虫すればほぼ無症状である。現時点でプラジカンテルの代替薬剤はなく,実用化後約40年を経過していることから薬剤耐性住血吸虫の出現が危惧されているが,アフリカの一部地域で臨床的薬剤耐性株の報告はあるものの,生物学的に立証された耐性住血吸虫の報告はない。ワクチンの開発にも成功していない。
最近ではマラリア治療薬であるアーテミシニン系薬剤が抗住血吸虫作用があることがわかっており,特にプラジカンテルでは効果がない幼虫ステージに強い作用があるため,ワクチンと類似の作用があることが示されているが,日本では住血吸虫症の治療薬としては薬価収載に至っていない。
対症療法は住血吸虫の種類によって異なる。濃厚感染例では高度な貧血,低栄養などに対処することが必要であるが,日本国内の輸入症例としてそのような事例に遭遇することはきわめて稀である。一方,腸間膜静脈寄生のマンソン住血吸虫と日本住血吸虫感染では主に肝脾病変(肝線維症,肝硬変,門脈圧亢進など)を,ビルハルツ住血吸虫感染では膀胱壁の炎症を改善する措置が必要である。これらの症状は体内残存虫卵によるもので,駆虫薬で成虫を駆除しただけで軽快するものではないため,対症療法の重要性が大きい。
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