「花粉症は国民病」と呼称されるようになって久しい。特に2~3月の本州を中心としたスギ・ヒノキ花粉症はいまだに増加しており,たとえ新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が蔓延していようが,おかまいなしに毎春到来する。COVID-19の症状としては発熱,咽頭痛,嗅覚味覚障害や肺炎などが取り上げられることが多いが,感冒症状としてのはなみずでの受診もあり,花粉症との鑑別に苦慮することもあると内科などの先生方から伺った。そこで花粉症の基本事項とCOVID-19への対応も含めて,表1とともに役立てていただきたい。
「アレルギー性鼻炎」にはハウスダストやダニなどを抗原とする“通年性”のものもあり,特徴的な症状としては「くしゃみ・はなみず・はなづまり」の3症状である。アレルギー性鼻炎の中でもいわゆる「花粉症」は草木花粉が抗原になるので“季節性のアレルギー性鼻炎”であるが,その症状としては3症状に加えてアレルギー性結膜炎による「目のかゆみ」が加わることがある1)。
花粉症の「はなみず」は水様性である。医師国家試験にも頻出されているが花粉症のはなみずの性状は水様性鼻汁である。逆に言えば,膿性鼻汁であれば感冒などの可能性も高い。花粉症の症状で「くしゃみ・はなみず」の2症状は,鼻粘膜がスギ・ヒノキ花粉に曝露して肥満細胞からヒスタミン顆粒が放出された際の即時型のⅠ型アレルギー反応である2)。特にこのコロナ禍のご時世で,飛沫を大きく飛ばすことになる「くしゃみ」症状は患者さんのためにも抑えてあげたいものである。
ヒノキ花粉は咽頭痛も起こすことがある。スギ飛散の後にヒノキ飛散の時期が到来するが,ヒノキ飛散時期には咽頭痛を訴える患者さんも認められる。鼻症状に加えて咽頭痛となるとさらにCOVID-19の感冒様症状に近くなるが,高い発熱を伴うことは無いようである。花粉症では,のどのかゆみやいがいが感などの咽頭症状で受診することもある。
嗅覚障害については,花粉症で嗅覚低下を伴うこともあるが,それは,はなみず・はなづまりによるものである。逆に,はなづまりの無い状態での嗅覚障害があればCOVID-19が疑われる。
花粉症の特徴的症状に「かゆみ」がある。鼻炎症状に加えて目のかゆみ,鼻のかゆみを伴っていれば花粉症とも考えられる。目や鼻がかゆくて指でこすってしまうと,もし指先に新型コロナウイルスが多く付着していると粘膜感染の危険がある。目や鼻をこすりたい時にはその前に十分に手洗いをする必要がある。目のかゆみ症状に困る患者さんは花粉症メガネをかけた方が「うっかり目をこすってしまう」ことも減る。
花粉症治療の第一歩は抗原の回避,除去,防御である。防御といえばマスクであろう。スギ・ヒノキ花粉の直径は約30μmであり,ウイルスの直径約0.1μmに比べれば巨大な粒子である。コロナ禍の現在,外出時にはほぼすべての人々がマスクを着用されていると思うが,この大きな粒子のスギ・ヒノキ花粉に対しては多種のマスクでも8~9割程の防御効果があると報告されている3)。いずれにせよ花粉症シーズンには,くしゃみによる新型コロナウイルスの飛沫飛散も防止したい。
今年新たに,日本耳鼻咽喉科学会のYoutube公式チャンネルで「コロナ禍の花粉症対策2021」という動画が2021年2月12日付けでアップロードされている。分かりやすい動画なので是非ご高覧いただきたい。
【文献】
1) 日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会鼻アレルギー診療ガイドライン作成委員会:鼻アレルギー診療ガイドライン2020年版. ライフ・サイエンス, 2020.
2) 權 寧博, 編:アレルギー性鼻炎. プライマリケアにおける喘息と合併症の管理.日本医事新報社, 2020.
3) 榎本雅夫:薬局. 2014;65(3):102-6.