脳血管障害(cerebrovascular disease)の代表的疾患には脳梗塞(cerebral infarction),脳出血(cerebral hemorrhage),くも膜下出血(subarachnoid hemorrhage)などがある。片麻痺は脳血管障害の最たる症状であるが,感覚障害(知覚鈍麻・しびれ・痛み),失調,不随意運動,視野障害,眼球運動障害,失語症,高次脳機能障害,認知症,精神症状が単独あるいは組み合わさり,様々な程度に表出する。患者は危険因子となる基礎疾患(高血圧症,糖尿病,脂質異常症,心房細動,静脈血栓症,血液凝固異常など)を有することが多く,障害により生じる誤嚥性肺炎や転倒に伴う骨折を合併することがある。また,廃用症候群あるいは誤用症候群をきたすことがあり,医師は包括的な疾患管理とリハビリテーションや介護など生活面からの視点を持つ必要がある。
脳血管障害の多くは生活習慣病が背景にあり,減塩,摂取カロリー制限,禁煙,適度な運動習慣などを実施する必要がある。看護,服薬,リハビリテーション治療,栄養管理,メンタルケアを実施するために,要介護者においては介護保険サービスの活用が推奨されている1)。在宅医療の最大の利点は,病室や外来とは異なる,患者本来の「生活の場」において,治療を行うことである。
薬物治療は,再発予防を目的とした抗血小板薬や抗凝固薬,危険因子の治療薬,基礎疾患の治療薬,残存する症状の軽減を目的とした治療薬である。複数の合併症を有する場合,多剤服薬になりがちであるが,生活状況を観察し,アドヒアランスに配慮した治療計画を立てる必要がある。片麻痺に伴う痙縮に対する治療としてボツリヌス療法が有用である。専門医療機関で実施されることが多いが,経験を積んだ訪問診療医が在宅で実施することもある。
在宅で行う治療の主体は本人と家族で,それを支えるのが各専門職である。専門職が役割を果たし,かつチームとして効果的・効率的に機能するために,医師には調整やリーダーシップを発揮する役割が与えられる。チームが円滑に機能する条件として,専門職同士が互いに対等な立場を尊重し,協力することの重要性を認識する必要がある。医師のカンファレンスへの参加は,各専門職の職務遂行状態の確認やチームの医療的方針決定において,きわめて重要である。
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