高齢者に多い骨折として脊椎圧迫骨折,大腿骨近位部骨折,橈骨遠位端骨折,上腕骨近位端骨折がある。特に,大腿骨近位部骨折は日常生活・生命予後に大きな影響を及ぼす(寝たきりになりやすい)骨折である。転倒による挫傷などは仮に骨折を起こしていなくても,痛みによって動かなくなり,廃用が進んで寝たきりとなってしまうきっかけになる可能性がある。
骨折があった場合に,局所の疼痛が症状の主体である。転倒の有無などの情報が重要であるが,認知症の高齢者などでは転倒があったのかがわからず,さらに時間が経過してから痛みを訴えることもある。X線撮影で骨折の判定をすることになるが,それでも診断に難渋することはある。在宅の患者であれば病院受診自体が大変なこともあり,診察を行ってX線撮影の必要性を判断する。
症状は一般的には立位が困難となり,股関節周囲の強い痛みの訴えがあることが多い。患肢は外旋し短縮して自動運動が不能となる。腫脹・皮下出血はみられないことも多い。鼠径部の大腿骨骨頭部の圧痛の有無と,患肢を他動的に動かし,特に内外旋での局所の痛みがあるかを診察する。骨頭の圧痛と他動時の痛みがなければ大腿骨近位部の骨折の可能性はかなり低くなる。骨折を強く疑う場合には,病院の整形外科へ紹介する。骨折がある場合には入院治療の対象となる。
高齢者の腰痛では脊椎椎体の圧迫骨折によるものなのか,そうでないのかを判別して対応しなければならないが,その判断はかなり難しい。椎体骨折の2/3は無症候性で症状がない。患者は骨折があることに気づかない,いわゆる「いつの間にか骨折」になっていることがある。受傷直後にはX線検査でも診断が不可能なことも多い。X線で新鮮な圧迫骨折か,陳旧性の骨折かを判別することも困難である。新しい骨折かどうかの判断をしなければならないときには,背部を叩いての叩打痛の有無は重要である。稀ではあるが,破裂骨折と言って脊柱管内の神経を圧迫してしまう骨折になることがある。下肢の神経症状が出ていないかのチェックも必要である。
骨折していた場合には局所の高度の痛みと圧痛,運動時痛が認められる。上肢の骨折の場合には体表に近いため,ほとんどの事例で皮下出血を認める。
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