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【一週一話】人類はHIVを克服できるか

No.4712 (2014年08月16日発行) P.51

松下修三 (熊本大学エイズ学研究センター教授)

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2017-03-27

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  • 「21世紀はウイルスの世紀」と言われたのを思い出す。確かに,次々と新しいウイルス感染症が発見され,多くの尊い命も奪われた。しかし,人類は科学の力でワクチンや抗ウイルス薬を開発し,ウイルス病克服の努力をしてきた。C型肝炎では有効な抗ウイルス薬が開発され,全員に治癒がもたらされる時代となった。B型肝炎でもワクチンと抗ウイルス薬で,新規感染の制御が可能となった。それではHIV(human immunodeficiency virus)感染症ではどうであろうか。

    抗ウイルス薬の多剤併用療法(combination anti-retroviral therapy:cART)の進歩により,HIV感染症の生命予後は著しく改善された。しかしcARTは,免疫不全の進行を阻止するものの,ウイルスの排除は不可能なため,服薬は一生継続されなくてはならない。エイズ動向委員会によると,わが国の新規登録患者数は,エイズ発症者とHIV感染者を合わせて毎年1500名というレベルで推移している。1人の症例に対して1年間に必要な医療費は250万円と推測されており,仮に全員が40年間生存するとしたならば,毎年1500億円の医療費負担を継続的に積み重ねていることになる。

    2011年に発表された「cARTが早期に開始されれば,パートナーへの感染を96%予防できる」という研究成果は,大きなインパクトを持って受け入れられた。発展途上国では,WHOによる抗ウイルス薬の支給も追い風になって,国家を挙げて検査と治療の普及に取り組んでいる。わが国におけるHIV感染例の実数は把握されていないが,エイズ動向委員会に報告された2万2971例の4倍以上とする試算もある。HIV陽性の未検査例に対してどのようにアプローチし,検査・治療へと導くかについては,今後取り組むべき緊急の課題である。

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