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鼠径ヘルニア(小児)[私の治療]

No.5072 (2021年07月10日発行) P.45

田中裕次郎 (埼玉医科大学病院小児外科教授)

登録日: 2021-07-12

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  • ほとんどは外鼠径ヘルニアであり,腹膜鞘状突起の遺残によって生じる。症状としては腸管,大網,卵巣(女児)の脱出により鼠径部の膨隆がみられる。膨隆は陰囊(男児),陰唇(女児)に及ぶこともあるが,見るときによって大きさが変化し,膨隆部を押すまたは臥位になるとほとんどの場合に消失する。症状が出はじめる時期は新生児期から思春期まで様々である。
    ヘルニア囊に腸管などがはまって戻らなくなることを「嵌頓」というが,嵌頓を放置すると,腸管の壊死,腹膜炎を引き起こすことがあるので,注意が必要である。なお,稀であるが小児でも,内鼠径ヘルニア(0.2~0.3%),大腿ヘルニア(0.1~0.9%)を生じることがある。

    ▶診断のポイント

    鼠径ヘルニアは臓器の脱出をもって診断するので,ジャンプさせたり,鼠径部近くの腹部を押したりしてヘルニア脱出を誘発してから診察するとわかりやすい。腹部超音波検査が有用である。鑑別としては,精索水瘤,精巣水瘤,ヌック管水瘤のほかに,鼠径部リンパ節炎やリンパ管腫がある。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    新生児期,乳児期に診断された症例については,自然軽快の可能性,麻酔の安全性を考えて,原則として1歳頃まで待ってから手術を行っている。ただし,卵巣脱出がある症例,ヘルニア嵌頓を繰り返す症例については,より早期に手術を行っている。

    卵巣脱出がみられる場合には用手還納が困難なことが多く,茎捻転を生じて虚血になる可能性がある。ヘルニア嵌頓の際には,腸管壁の損傷から腸管狭窄となることがある。また,男児の場合,ヘルニア嵌頓により精巣動静脈が強く圧迫されることで血管壁が傷害を受けることがあり,精巣萎縮の原因となりうる。停留精巣を合併している場合には,ヘルニア嵌頓を生じると用手還納を試みた際に精巣に強い外力が加わり,精巣を損傷することがある。

    手術法には鼠径切開法と腹腔鏡手術とがある。腹腔鏡の気腹に耐えられない児,腹腔内に高度の癒着が存在する児を除いて,腹腔鏡手術を第一選択としている。なお,停留精巣を合併していて,鼠径部操作を必要とする場合には鼠径切開法を行っている。腹腔鏡手術のメリットとしては,対側検索を行うことができるために,鼠径切開法で10%弱みられていた対側発生1)をほとんどなくすことができる。また,男児の場合には精巣動静脈,精管周囲の剝離を最小限にとどめられる。女児の場合には卵管が子宮円靱帯に付着して鼠径管内に滑脱していることがあるが,卵管をみながらヘルニア囊の結紮を行えるため,誤って縛り込む危険がほぼない。また,女児の両側鼠径ヘルニアに稀に合併する精巣女性化症候群の検索を行うことができる。一方,デメリットとしては,腹腔を経由して内鼠径輪を観察するので,腹部臓器損傷,術後腸閉塞の危険がわずかながらある。また,臍から腹腔鏡を挿入するため,臍の変形をきたす可能性がある。

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