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芸術鑑賞ビタミン論[なかのとおるのええ加減でいきまっせ!(365)]

No.5076 (2021年08月07日発行) P.67

仲野 徹 (大阪大学病理学教授)

登録日: 2021-08-04

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新型コロナのせいで、しばらくの間、芸術鑑賞から遠ざかっていた。演劇、コンサート、落語、映画、文楽、美術館など、以前は、平均したら週に1回くらいの割合で行っていた。このところやや復活してきてはいる。とはいえ、まだずいぶんと少ないままだ。

こういった鑑賞は、微量でいいけれども必ず摂取し続けねばならないビタミンに似てるんとちゃうかと思ったりする。しょっちゅう行かなくとも、たまには行っておかないと体の調子が悪くなってしまう。

ビタミンの定義はけっこう難しい。ごく簡単にいうと「体内で合成できない、微量で生存に必要な有機化合物」ということになっている。しかし、ビタミンDのように生体内で合成が可能なものもある。また、ビタミンと総称されるが、それぞれのビタミンの機能はバラバラで共通項はほとんどない。

病理学総論の講義でビタミンの話をする。面白いエピソードが多いので、好きなパートである。いちばんのお気に入りはビタミンCだ。大航海時代の壊血病や、いまひとつ根拠が定かでないのに代替医療として根強く行われているビタミンC大量療法など、トピックスには事欠かない。

ビタミンCがビタミンなのは霊長類にとってだけであるということはご存じだろうか。わかりにくい文章だが、他の哺乳類は体内でビタミンCを合成することができるという意味である。霊長類だけが、ビタミンCを合成する酵素を欠くために作れないのだ。

これは、初期の霊長類が進化の過程で、ビタミンCの豊富な果実が多い森林で出現したことの証拠とされている。変異によりビタミンCを合成できなくなったのに、生きていくのに困らなかったからこう考えられている。むっちゃ面白くないですか?

ビタミンといえば欠乏症が有名だが、ビタミンAやDといった脂溶性のビタミンには過剰症もある。ビタミンAは肝臓に多く含まれているので、動物の肝臓を食べ過ぎると過剰症を引き起こす可能性がある。

イヌイットは、ホッキョクグマの肝臓を食べてはならないと言い伝えられている。これは、ホッキョクグマの肝臓には特にビタミンAが大量に含まれているので、過剰症を避けるためだと考えられている。

芸術鑑賞も過剰になると仕事に差し障りがでたりしてよろしくない。ということで、芸術鑑賞ビタミン説、どうですやろ?

なかののつぶやき
「演劇や落語関係の人たちにお話を聞くと、本当に大変らしいです。演劇など、1カ月も練習を積んで公演取り消しになって泣くに泣けないという話を聞くと、こちらが泣けてきます。落語家さんたちも仕事が本当になくて、若手の中にはUber Eatsで生計を立てている人もおられるとか。なんとか少しでも早く、昔どおりに芸術鑑賞のできる日が来たらええんですけどねぇ」

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