私は73歳。髪は白く、本数も減少傾向。しかもその一本一本が勝手に変形しつつあるようです。もう床屋(Barber shop)で理髪の必要はないと思っていますが、でも月に一度訪れて調髪をお願いしています。また、床屋での“うとうと”も楽しみです。
その際に、床屋の店先にある赤白青三色の看板(正式名称はサインポール)を見ることが必要です。すなわち、サインポールがクルクルと回っていると営業中であることを示しているからです。面白いことに、このサインポールは世界共通とのことです。また、その赤白青三色の意味は?
これには諸説あるようですが、その中で最有力なのは“瀉血”説です。瀉血は、中世ヨーロッパで病気の患者に外科医を兼ねていた床屋(床屋外科、Barber Surgeons)が施行していた一般的な治療です。悪い血がたまると病気になると考えられていた当時、患部を切開して血を抜き取る治療法です。その方法は、患者に棒を握らせ、瀉血、棒に血液を伝わらせて受け皿に落ちていくようにしたとのことです。
その“瀉血棒”がサインポールの原型とのこと。瀉血棒は血液が目立たないように赤く塗られ、それにまとわりついた白い包帯をイメージしているようです。それで英国のサインポールは赤と白の二色で、赤は血、白は包帯を表しているのです。
床屋外科医は、さらに戦争にも従軍し、髪を切ることから、四肢を切断することまで期待され義務を遂行したようです。
1540年に描かれたHans Holbein作の“Henry Ⅷ and the Barber Surgeons”という作品があります。ヘンリー8世と多くの床屋外科医との謁見を描いた絵画です。当時、どのように治療したのかわかりませんが、国王も多くの床屋外科医を必要としたのでしょう。
しかし、時代とともに床屋外科と外科との技術の差により、床屋と外科の組合が分離せざるをえなくなり、その際に床屋組合は赤白青三色の看板、外科は赤白の看板の使用が決められたようです。
今でこそ外科と床屋とは、まったく別の職業ですが、床屋外科医なる職業が遠い過去に存在した事実に大変興味が持たれます。
これに関連して、英国で今も受け継がれている慣習があります。それは、医学生が医学部を卒業し、初期研修、GP(general practitioner)コースを修了。その後、外科専門コースに進み、終了した医師はFRCS(Fellow of the Royal College of Surgeons)の称号を得ます。その時に“Dr.”から“Mr.”を名乗る慣習です。これは中世のBarber Surgeonsに由来すると言われます。すなわち、FRCSとなり、DoctorからBarberになったということで、一般のMisterを使用するようです。Mr. Barber Surgeon !