新型コロナウイルスの感染拡大を受け、2022年度から初診が恒久的に認められることになったオンライン診療。7月からの“第5波”の影響で病床が逼迫し、自宅療養を余儀なくされる患者が急増する中、政府は地域のクリニックが患者の状態を把握する手段としても、往診に加えオンライン診療を積極的に活用するよう促している。現在の普及状況などオンライン診療を巡る最新の動きについて解説する。
新型コロナ感染拡大を受け、2020年4月から特例的・時限的措置として「電話・情報通信機器を用いた診療」の初診の容認や診療報酬の見直しなど大幅な規制緩和が行われている。この影響で、電話・情報通信機器を用いた診療ができると登録した医療機関は2020年4月24日の1万812件から5月末には1万5226件と大きな伸びを示した。しかし20年下半期からはほぼ横ばいの状況が続き、21年4月末の時点で全医療機関(11万898施設)の約15%に当たる1万6843施設にとどまっている。
この間、電話・情報通信機器を用いた診療のうち電話診療の割合は約6~7割で推移している。電話診療が多い主な要因は、現在の措置が多くの医療機関や患者が活用できることを目的としているため、電話やFAXなどを用いた診療でも初診料の算定可能としている制度設計にある。いわゆるオンライン診療システムを使う必要はないため、多くの医療機関が電話を用いた診療を実施しているのが現状だ。
それではオンライン診療の実施状況はどうなっているのか。ミーカンパニー(株)が作成する医療機関・介護統合データベース「スクエルデータベース」(https://scueldata.me/)に掲載されたオンライン診療料の届出をしている医療機関の都道府県別件数(2021年5月時点)を見ると(図1)、全国の合計は6790件、そのうち診療所が6161件、病院が629件となっている。最も多いのは東京都の1340件、神奈川県の668件、大阪府の573件、愛知県の385件と大都市を抱える自治体が上位を占めている。一方、19の自治体は50件未満という状況にある。
図2は関東信越厚生局管轄地域の届出医療機関を同社がマッピングしたもの。オンライン診療は従来、遠隔診療の1つの枠組みとして位置づけられてきた経緯があり、医療過疎地での医療アクセス向上という効果が期待されているが、現在のオンライン診療のユーザーは医師・患者双方がICTを操作できる30~50代が中心ということもあり、オンライン診療料の届出医療機関が都市部に偏っている。地方では医師も患者も高齢者が多い傾向にあるため、中々普及が進まない状況にあるようだ。
普及が進まないもう1つの大きな要因は診療報酬。時限的・特例的措置の下でも対面診療とは依然として差があり、初診の場合、対面診療が合計 356点であるのに対し、特例措置における電話・オンライン診療は約2割低い282点にとどまる。慢性疾患等で再診する場合は、対面診療に比べ3割弱低く、クリニックにとってはオンライン診療に切り替えることで減収になってしまう。政府の後押しもあり、次期診療報酬改定ではオンライン診療の推進に向けた評価のあり方が議論の目玉となる。
こうした中、東京都医師会は感染者の急増を受けて8月13日に緊急会見を行い、自宅療養患者を支援する仕組みとしてオンライン診療を活用する方針を示した。新型コロナの中等症が疑われ、往診などが必要な患者に対して夜間にオンライン診療を活用することを想定し、図3のようなシステムを構築する。
オンライン診療サービスはMICINが提供する「curon typeC」を採用。一般的なオンライン診療ではアプリケーションのダウンロードが必要だが、同システムはブラウザから誰もが利用でき、操作がやさしく汎用性が高いという特徴がある。
運用の流れは①保健所やフォローアップセンターが医師の診察などが必要と判断した患者を選び、オンライン診療用のURLを発行、②患者はURLにアクセスし、オンラン上の待合室で待機、③患者が待合室に入ると医師の登録メールアドレスに通知があり、オンライン上の診察室で患者を診察─というもの。参加医療機関が事前に準備する必要があるのはウェブカメラやマイク機能を付けたPCまたはタブレットのみ。患者はスマートフォンで受診できる。
通常のオンライン診療は、患者が医療機関を選び診療を受ける仕組みだが、都医のシステムはオンラインを通じた“多対多”で診療を行う形になる。複数医師がいるオンライン上の仮想病院の待合室に患者が待機、医師は患者の緊急度や待ち時間などを勘案して診療を行うイメージだ。
運用の詳細は検討中だが、診療時間帯は18時〜21時、スタート時は1日当たり100程度の患者を診察することを想定している。診療する医師については、当面地区医師会6ブロックから1人ずつなど、輪番制で担当する考えで、8月下旬から運用を開始する予定だ。
新型コロナ感染症の治療においては重症化予防が重要になる。自宅療養患者に早い段階で適切な医療が提供できれば、病院の負担は大きく軽減される。東京都の病床は日を追うごとに逼迫しており、全都を均一にカバーする支援策として機能することが期待される。